脱Netflixを目指す──映像作品のD2Cスタートアップ「Olyn」が切り拓く未来【GB Tech Trend #133】

NetflixやAmazon Prime Videoのような大手ストリーミングサービスとは異なるアプローチで映像クリエイターを支援する「Olyn」。ただ作品を配信するだけではない、独自の価値にも注目が集まっています。

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執筆: Universe編集部

今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

280万ドルの調達を発表した「Olyn」(Image Credit: Olyn)

映画市場で活躍するD2Cスタートアップ「Olyn」に注目が集まっています。同社は映画・動画のストリーミングプラットフォームで、累計280万ドルの資金調達に成功しています。Olynは、映像系クリエイター向けのプラットフォームで、DRM(デジタル著作権管理)、4Kストリーミング、キャスティング、クリエイター独自のランディングページ作成など、映像作品をリリースする上で必要な全ての機能を持ち合わせたSaaSです。

背景にあるのは映像市場のトレンド

OlynはNetflixやAmazon Prime Videoのような大手ストリーミングサービスのように、プラットフォーム側が視聴会員を獲得してくれるのとは違い、クリエイターは自分で視聴者を獲得して配信作品を販売する必要があります。その代わり、収益の最大90%を保持しながら、観客にストリーミング体験を提供することができます。プラットフォームの仲介プロセスをなくし、直接視聴者に作品を届けるD2CモデルがOlynの特徴です。

Olynのターゲット層はインディー映像クリエイターや中小規模の制作会社です。彼らが新たな配信プラットフォームを求めている理由には、昨今の映像作品市場のトレンドが挙げられます。こちらの記事によると、ストリーミングプラットフォームへの視聴ライセンス契約は増加しているものの、プラットフォーム側が求めるのは有名キャストを多用した、ある程度事前に認知・人気が担保されるような作品を欲しているとあります。こうした作品は巨額な予算を持つスタジオであれば制作可能ですが、中小規模の作品しか手の届かない制作会社・クリエイターにとっては非常に難度が高くなっています。

また別の記事では、ストリーミング以外に映画館での配給ハードルも上がっているとも指摘しています。というのも、制作予算が高止まりしているだけでなく、ライセンス購入以外にマーケティングにも多額の予算(ライセンス費用の3〜5倍)を出してくれる配給パートナーを探す必要があるからです。

こうした背景からインディーフィルム市場ではホラー、アクション、スリラーなどの領域に絞り、かつ尖ったコンセプトの作品がトレンドになっているのです。

配信するだけではない、独自の価値

そこで登場したのがOlynです。クリエイターや俳優、製作陣がSNSを駆使して自らのファンに向けて作品を配信できます。また、ライセンス契約が完了していないなどの理由から、大手ストリーミングプラットフォームで未だ配信されていない地域では、海賊版作品が幅を利かせますが、Olynでは世界のどの地域にもURL一つで配信できるようになるため、違法作品の配信抑止にもなります。

Olynは「フィルムメーカー向けShopify」と謳われています。ShopifyはEC向けの諸機能を提供する大手SaaSで、小売業者が手軽にECサイト立ち上げから販売までに必要な機能へアクセスできるプラットフォームです。この点、OlynはNetflixのような単なるストリーミングプラットフォームではなく、配信を含めた「機能」をバンドルとして提供するSaaSである点に大きなメリットがあります。

現在は映画市場にターゲットを絞っているようですが、YouTubeなどでテレビ番組に並ぶほど作り込んだ企画をしている配信者が、長尺作品のプレミア配信を行えるプラットフォームとして利用することも考えられます。90%という高い収益率を維持し、クリエイター自らのLPサイトをデザインできることも魅力となるはずです。Olynは欧米市場での展開を目指していますが、同様のモデルが日本を中心にアジアで登場しても不思議ではないでしょう。

2月12日〜2月25日の主要ニュース

1億ドルの調達を発表した「Genspark」(Image Credit:Genspark)

「Genspark」シリーズAで1億ドル調達、評価額5.3億ドルでGoogleに挑む

ユーザーのクエリに基づいてリアルタイムでカスタムページを作成するAI検索エンジン「Genspark」は、シリーズAラウンドで評価額5億3,000万ドルをつけ、1億ドルの資金調達を実施した。

現在200万人以上の月間アクティブユーザーを抱えており、今回のラウンドは米国とシンガポールを拠点とする投資家グループによってリードされた。同社はGoogleが牽引する検索市場をディスラプトするスタートアップ。— 参考記事

微生物検査を即時化、「Spore.Bio」が2,300万ドル調達

高度な機械学習と光学的手法を使って有害な細菌を数分以内に現場で特定し、メーカーが製品の安全性を確保できるようにする装置を開発した「Spore.Bio」は、シリーズAラウンドで2,300万ドルを調達した。 Singularがリードを務め、Point 72 Ventures、1st Kind Ventures、Station Fのほか、これまでの投資家であるLocalGlobe、No Label Ventures、Famille Cもラウンドに参加した。

従来、食品・飲料業界では微生物検査には数日かかる。 企業はサンプルを採取し、専門のラボに送って検査を受けなければならないが、この非効率な日数を圧倒的に短縮できる。すでに200の工場との契約を結んでいるという。— 参考記事

AI広告プラットフォーム「Valid」が550万ドル調達

AIを使ってデジタル広告キャンペーンを管理・最適化する「Valid」が、550万ドルの資金調達を実施した。Canaan Partnersがリードを務め、NeoとJVenturesも出資した。

Validは立ち上げ以来、Aragon AI、Julius AI、TapTapSend、Fuelinなど、数十のモバイルアプリ、B2B SaaS企業、Eコマースブランド向けにサービスを提供し、すでに数百万ドルの収益を引き出している。 初期の顧客は、ValidのAI搭載プラットフォームを活用して、TestFlightから10万ユーザーへの成長、広告費用対効果(ROAS)の2倍向上、顧客獲得コスト(CAC)の80%削減などを実現している。— 参考記事

グループライドシェアの成長株「Fetii」、740万ドル調達で市場拡大

大人数のグループに適した大型車両を予約できるオンデマンド・グループ・ライドシェア・サービス「Fetii」が、シードラウンドで740万ドルを調達した。Mark Cubanがリードを務め、Y CombinatorとGoodwater Capitalがラウンドに参加した。

Fetiiは現在、ダラス、サンアントニオ、ヒューストン、アトランタ、ナッシュビル、フェニックス、スコッツデールを含む6州68都市で事業を展開し、毎月20万人以上の乗客を運んでいるという。 Fetiiは事前に乗り物を予約する機能を提供しているが、75%から80%はオンデマンドだという。— 参考記事

子育ての不安を解消、「Riley」がシードラウンドで310万ドル調達

AIと専門家の知見を組み合わせ、子供を持つ新米の親にパーソナライズされたリアルタイムガイダンスを提供する「Riley」は、True Venturesがリードを務め、FlybridgeとNext Wave NYCが参加したシードラウンドで310万ドルを調達した。

このプラットフォームは、全米の親のうち48%が「育児に圧倒されている」とストレスを感じている今、初期の子育て支援における重要なニーズに対応することを目的としている。 Rileyのアプリでは、睡眠トレーニングや発達のマイルストーンなどのトピックについて、親がリアルタイムで質問することができ、小児科の研究と家族固有の状況を組み合わせた回答が提供される。— 参考記事