音声生成「ElevenLabs」33億ドル評価の衝撃【GB Tech Trend #132】

テキストを入力すると本物の人が読み上げたような音声データを生成できるElevenLabs。Podcast企業から生成AI企業、ハードウェア企業など多岐にわたる顧客にサービスを提供し、急成長しています。

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今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

1.8億ドルの調達を発表した「ElevenLabs」(Image Credit: ElevenLabs)

2022年の創業からわずか3年の間で33億ドルの企業価値へと急成長を遂げた「ElevenLabs」。今回、シリーズCラウンドで1.8億ドルの資金調達を実施したことを発表しました。ElevenLabsは、イントネーションや感情などを本物そっくりに真似た合成音声を作成できる音声生成サービスです。

ユーザーはテキストを入力し、そのテキストを数種類のデフォルト・ボイスから選ぶことで、本物の人が読み上げたような音声データを得ることができます。オーディオブックの制作、映画やテレビ番組の吹き替え、ゲームやマーケティング・アクティベーション用のキャラクターボイスの生成などを目的とした音声生成技術を開発しています。

昨年からはB2BだけでなくB2C向けサービスへと展開を始めています。本記事ではElevenLabsの成長の背景にある2つのポイントに迫ります。

“音声のインフラ企業”としてのElevenLabs

ElevenLabsはB2B向けに音声生成機能を提供しており、すでにPerplexity、Rabbit R1、Chess.com、ESPN、Lex Fridman Podcast、The Atlantic、Synthesiaなど、Podcast企業から生成AI企業、ハードウェア企業など多岐にわたる顧客にサービスを提供。既存プラットフォームやディベロッパーにとって必須な音声生成インフラ企業としてのポジションを確立しつつあります。

ElevenLabsがインフラ企業を目指すことで急成長できる可能性を睨んでいたVCがあります。

それが前ラウンドから参加し、今回のラウンドの巨額投資を共同リードしたファンドの1つ「a16z(Andreessen Horowitz)」です。a16zは2019年前後から音声市場、とりわけPodcast市場へと大きく注目しています。

こちらの記事では、米国ユーザーの1/3が音声コンテンツを楽しみ、週平均7つのPodcastコンテンツを聴くことを紹介しており、いかに音声市場がマスアダプションされているのかを記しています。

a16zは音声市場トレンドに長らく注目し続け、Podcastクリエイター向けプラットフォーム「Descript」への出資も行っています。同社はPodcast制作に必要な編集ツールを提供。高精度の音声合成機能(テキストを入力すると特定の声優ボイスへと変換してPodcast配信できるなど)も併せて開発・提供しています。

実際、Descriptは2022年に5,000万ドルを調達したシリーズCラウンドでOpenAI Startup Fund から出資を受けており、AI企業への舵取りをいち早く判断しました。

しかし、DescriptのようにAI開発を自社で行える企業は例外的と言えます。プラットフォーム側が高精度のAI機能を自社開発するには限界があるでしょう。ここに参入したのがElevenLabsです。

a16zはDescriptに代表されるクリエイター向けSaaS企業の成長を見届けてきました。その上で、ElevenLabsが既存プラットフォームと提携することで、今後音声配信、アニメーション、映画などの多様な分野で使われるAIインフラサービスになると考え、出資を実行したと想像できます。

a16zは投資先間や、スタートアップと大企業の提携を取り持つ仲人のような動きも活発に行っています。ElevenLabsのサービスが投資先に実装されれれば、両社の企業価値を底上げし、ファンドとしても業績を高められます。この一石二鳥の戦略を採用できる点も、今回のElevenLabsのラウンド背景として挙げられるでしょう。

B2Cでさらに進む、音声生成の民主化

2020 年頃に話題になった翻訳サービス「DeepL」。当時、まだ完璧ではなかったGoogle翻訳に代わる高精度翻訳サービスとして登場し、スタートアップが大手テック企業の技術力を凌いだことで注目を集めました。

いまとなっては多言語翻訳はどのサービスを取っても一定以上の読みやすさが担保されていますが、DeepL登場時は市場に大きなインパクトを与えました。まさに同じような動きがElevenLabsにも見られます。

ElevenLabsは2024年、テキスト情報からPodcastを作成できるアプリ「ElevenReader」をローンチしています。これによって誰もが本物の声優が読み上げているような高性能な音声コンテンツを楽しめるようになりました。

現在はElevenLabsアプリ限定で提供されていますが、仮にChromeエクステンションのような拡張機能を通じて、ブラウザー閲覧中のWeb記事から自分だけのPodcastコンテンツを作成できるようになれば、より音声生成が民主化されていくと言えるでしょう。

また、今後はYouTube動画から自分の声音で多言語展開できるサービスの立ち上げも想像できます。

実際、ElevenLabsは投資家向け資料で、著名YouTuberのMrBeastの事例を紹介しています。同氏は英語チャンネルで9,600万登録者を持ち、スペイン語チャンネルでは1,900万登録者を新たに獲得したと記載があります。多言語展開により、クリエイターにより多くのファン獲得と収益最大化の可能性があることがここからわかります。

今回調達した1.8億ドルもの巨額資金をもとに、ElevenLabsはB2C市場へ参入し、音声生成市場を席巻しようとしています。

加えて、今回の調達ラウンドで日本のファンドも出資していることから、今後日本市場への進出も期待されます。創業から約3年の間にB2Bからの安定的な収益を確立し、一挙にB2C市場へと参入するElevenLabsのモデルは、直近のAI スタートアップの理想的なグロースモデルとなるかもしれません。

1月28日〜2月10日の主要ニュース

2,000万ドルの調達を発表した「Jump」(Image Credit:Jump)

金融アドバイザーのためのAIアシスタント「Jump」が2,000万ドル調達

ファイナンシャル・アドバイザーが会議の準備、メモ取り、コンプライアンス文書作成、顧客フォローアップなどのタスク管理を支援する「Jump」は、Battery Venturesがリードし、Citi Ventures、Sorenson Capital、Pelion Ventures Partnersらが参加したシリーズAラウンドで2,000万ドルを調達した。

Jumpは月平均35%以上の成長率を記録している。また、Jumpを利用するアドバイザーは、1日あたり平均1時間を節約しており、中には1日あたり数時間の時間節約を報告する人もいる。 さらに84%のユーザーが、ミーティングの準備とフォローアップにおいて、他のツールよりも優れていると評価しているという。— 参考記事

AI税務サービス「TaxGPT」、460万ドル調達

税務調査、顧客との連絡、必要書類の収集などの作業を自動化する税務専門家向けのAI税務サービス「TaxGPT」は、シードラウンドで460万ドルを調達した。 投資家は、Rebel Fund、Mangusta Capital、Y Combinator、Launch、iSeed Ventures、Converge Fund、TRAC AI/VC Unicorn Fund、Goodwater Genesis、CRV Disrupt Fund、Principal Venture Partnersなどが含まれる。

税金の複雑さはアメリカ人に年間2,600億ドルのコストをかけている。 同時に、公認会計士の75%以上が今後10年で退職する可能性があり、業界は自動化のトレンドを望んでいる。そこで登場したTaxGPTは、すでに1万人以上の公認会計士、税理士、登録代理人が利用しており、25万人のクライアントにサービスを提供している。— 参考記事

シルベスター・スタローン氏も出資する「Largo.ai」映画制作のAI化を目指す

脚本分析、キャスティング提案、財務予測で映画制作者を支援するAIツールを提供するスイス拠点の「Largo.ai」は、TI CapitalとQBIT Capitalが共同リードを務めたシリーズAラウンドで750万ドルを調達した。DAA Capital、Atreides Management、Thomas Tippl氏、Sylvester Stallone氏も出資した。

ハリウッドのスタジオや大手エージェンシーを含む600社以上と提携し、映画やTVの分野で幅広い採用を確立してきたLargo.aiは、新バージョンのAIツール投入を控える。映像コンテンツが制作段階でどのように見えるか、クリエイティブ・コンセプトを可視化できるようにAI開発を行なっていくという。— 参考記事

EV充電ステーション20万カ所を統合管理を目指す「Presto」1,500万ドル調達

複数の電気自動車向け充電ネットワークを検索、充電、支払いまでできるプラットフォーム「Presto」は、シードラウンドで1500万ドルを調達した。 投資家にはUnion Square Ventures、Congruent Ventures、Powerhouse Ventures、Jetstreamが挙げられる。

Prestoはパートナー企業にとって、より多くの充電需要を取り込み、充電器の利用率を高めるのに役立っている。 一般的な急速充電器の設置には116,000~167,000ドルかかる。

そのため、充電事業者は当然、混雑を最小限に抑え、顧客体験を最適化しながら、充電器の利用率を最大化したいと考えている。現在、50以上の異なる企業によって運営されている充電ステーションは20万カ所以上あり、それぞれが独自のソフトウェア、モバイルアプリ、充電ハードウェアを持っている。 これらを画一的にナビゲートするのがPrestoのソリューションである。— 参考記事

低コストで空撮可能な気球「Urban Sky」が3,000万ドル調達

小型で再利用可能な高高度気球を開発し、人工衛星や航空機、ドローンの数分の一のコストで高解像度の空中画像を撮影し、山火事などを監視する「Urban Sky」は、Altos Venturesをリードに、New Legacy Ventures、Lerer Hippeau、Catapult Ventures、Lavrock Ventures、New Stack Ventures、TenOneTen、DA Ventures、Union Labs VC、Techstarsらが参加したシリーズBラウンドで3,000万ドルを調達した。

同社は昨年、約150機の気球を飛ばしたが、今年はそれを大幅に増やす計画で、月に数百機の気球を製造できるようにする予定。現在の従業員数は現在40名で、年内には60〜65名に増やすという。— 参考記事