生成AI時代のAndroid OSを目指す 「/dev/agents」が描く未来【GB Tech Trend #129】

生成AI開発をとりまく、標準化された開発プラットフォームがないという問題。この解消を目指すスタートアップが登場しました。シード期であるにもかかわらず、業界内ではすでに高い評価を受けています。

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執筆: Universe編集部

今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

画像:5,600万ドルの調達を発表した「/dev/agents」(Image Credit: /dev/agents)

生成AI時代に特化した新たなOSを開発する「/dev/agents」に注目が集まっています。同社はGoogleのAndroid部門でVice President of Engineeringを務めた経験を持つDavid Singleton氏がCEOを務めるスタートアップです。

クラウドベースのOSである/dev/agentsは、あらゆるデバイス間でシームレスに動作し、生成AIを活用したパーソナライズ体験を提供することを目指しています。プロダクトの実現性やチームのバックグラウンドの強さが高く評価され、シードラウンドで5,600万ドルを調達し、評価額はすでに5億ドルに達しています

生成AI時代の「Android」が登場

従来の生成AIアプリ開発では、標準化された生成AI向けの開発プラットフォームが存在しないという問題に直面していました。この課題に対し、/dev/agentsは、デバイスを問わず統一的に生成AIアプリを動作させることを可能にするOSを提供しようとしています。これは、Androidがモバイルデバイス向けにOSを提供した構造に似ています。

現在、Appleが「Apple Intelligence」を発表し、iOSやMac OSにAI機能を強化する方針を示すなど、既存の大手OSもAI時代への適応を進めています。このような市場状況下で、独自のポジションを確立しようとしているのが/dev/agentsというわけです。

こちらの記事によると、AIに特化したOSという点で「生成AIに最適化したUI」「プライバシー」「開発基盤」という3つの特徴を有していると紹介されています。こうした生成AIアプリ開発をスムーズに行い、リリースまで一気通貫にできるOSが/dev/agentsです。

モバイルアプリ時代には、iOSとAndroidが二大巨頭として市場を席巻し、それぞれのOSがインフラとして機能したためにアプリ開発の生態系が加速度的に成長しました。同様に、AI時代においても、/dev/agentsのようなOSがAIアプリケーション開発の標準を確立することで、市場全体を底上げする可能性があります。

/dev/agentsが市場に確固たる地位を築いた場合、その収益化のポテンシャルは大きいと考えられます。たとえば、Android OSがアプリ課金手数料やデバイス(Android Phoneなど)へのライセンス提供料で収益を上げてきたように、/dev/agentsもAIアプリ開発のインフラとして市場に認められれば、生成AI向けスマートフォン開発企業からのライセンス収益モデルなどを構築できるでしょう。

同時に、サードパーティ開発者やハードウェアメーカーとの連携により、AI時代のエコシステムを形成することも期待されます。/dev/agentsのOSが市場に浸透すれば、生成AIデバイスが普及するだけでなく、生成AIに親しむ次世代ユーザーが相乗的に増加するというネットワーク効果が期待されます。

競合となるのは「領域特化型」OS

/dev/agentsのように生成AI向けOSを開発する企業の一例として、老舗フィンテック企業「Intuit」が挙げられます。同社は北米向け会計ソフトとして40年以上の歴史を持ち、NASDAQに上場しています。

Intuitは独自の生成AI向けOS(「GenOS」というコンセプト)とカスタム財務言語モデル(LLM)の2つを提供し、金融アプリを開発できるプラットフォームを発表しています。同社のGenOSには4つの特徴があり、/dev/agentsの将来像を想像する手助けになります。

  1. 開発者がユーザー向けの生成AI体験を迅速に実験・改良できる専用開発環境(GenStudio)
  2. 適切な大規模言語モデルをリアルタイムで選択し、適切なデータアクセスポイントを呼び出せる機能(GenRuntime)
  3. LLMとのやり取りに活用できる最適なユーザーフローのライブラリ(GenUX)
  4. 税金、会計、マーケティング、キャッシュフロー、個人財務の課題解決に特化したカスタムトレーニング済みの金融特化のLLM

Intuitの事例は金融領域に特化したOSです。同社のように長年特定領域に取り組んできた企業が、これまでのノウハウを独自LLMとしてプロダクト化し、開発プラットフォームとして展開する流れが徐々に広がってきています。

複数社からOSが発表される中で、統一的なOSとして採用されることを目指しているのが/dev/agentsです。こうしたプロダクトが市場に広まっていくためには、Intuitのような専門性の高い独自LLMの使い勝手を超える、汎用性を持つOS開発が求められます。日本市場においてもこの潮流の影響がどの程度あるのか、注目したいところです。

12月3日〜12月16日の主要ニュース

画像:2億ドルの調達を発表した「ZestAI」(Image Credit:ZestAI)

AIで公平な信用評価を実現する「ZestAI」が2億ドルを調達

金融機関向けにAIを活用したローン審査モデルを構築し、借り手の信用力を公平に評価できるようにする「ZestAI」は、Insight Partnersから2億ドルを資金調達した。

ZestAIの技術は何千ものデータ変数を分析、50以上の特許を持ち、500以上のアクティブな独自のAI消費者信用モデルを開発・展開している。

Insight Partnersが2020年にZestAIに初めて投資して以来、同社は毎年顧客数を倍増させ、平均年成長率は50%を超えている。 現在、顧客は1億1,000万人、運用資産は5兆5,000億ドルに上る。— 参考記事

元Google CEOも出資、富裕層向けカードサービス「Atlas Card」が2,700万ドル調達

VIPイベントへのアクセス、パーソナライズされた旅行体験、一流レストランの優先予約などの富裕層向けに設計された金融カードを提供する「Atlas Card」は、シリーズBラウンドで2,700万ドルを調達した。Marathonがリードを務め、元グーグルCEOのEric Schmidt氏も出資した。

Atlas Cardは、年間利用額が2億ドルを突破し、有料のマーケティング費用をかけずに毎月2桁の成長を達成した。また、2025年に購入額10億ドルを突破することを目指し、新たな市場やカテゴリーでカード会員にさらに大きなアクセスを提供するためにサービスを拡大している。— 参考記事

黒字化間近のモバイルバンク「Current」、3,000万ドルをa16zらから調達

当座預金口座やデビットカードなどのモバイル・バンキング・サービスを提供する「Current」は、3,000万ドルの資金調達を実施した。 Andreessen Horowitz、Wellington Management、Avenirらがラウンドに参加した。

2025年第3四半期から第4四半期にかけて、黒字化が見込まれるという。 同社の収益は今年90%以上伸び、「数億ドル」に達する見込みであり、2026年か2027年のIPOを視野に入れているとのこと。— 参考記事

AIで美容製品開発を支援する「eyva.ai」、280万ドルを調達

新たなトレンドや消費者の嗜好を分析することで、美容・パーソナルケア企業がより効果的に製品を開発・販売できるように支援するAIプラットフォーム「eyva.ai」は、EarlybirdとWENVEST Capitalが共同でリードするシードラウンドで280万ドルを調達した。True Global Ventures、xdeck、Wepa Ventures、Robin Capital、Superangelsも出資した。

美容・パーソナルケアブランドは、コストの上昇、持続可能性への要求、急速に変化する消費者の期待など、大きな課題に直面しているだけでなく、新製品発売の60%近くが失敗している中、非効率的なポートフォリオ管理とトレンド評価が入り混じっている。そこでeyva.aiを活用すると、従業員がリサーチやコンセプト開発に費やしていた毎週10時間ほどのリソースを生み出せるようになるという。— 参考記事

45万ダウンロード突破、登録不要の暗号資産取引アプリ「Relai」が1,200万ドル調達

登録や認証を必要とせずにユーザーがビットコインを簡単に売買できるように設計されたアプリを開発する「Relai」は、Ego Death Capitalがリードし、Plan B Bitcoin Fund、Timechain、Solit Groupらが参加したシリーズAラウンドで1,200万ドルを調達した。

現在Relaiのアプリは45万ダウンロード、14万アクティブユーザー、3.5万の月間アクティブユーザーがいるという。 ダウンロード数は毎月2-3万件ずつ増加しており、2025年には100万件に達する見込みである。— 参考記事