Sequoiaも投資した、プレイのたびに変化する「生成AIゲーム」【GB Tech Trend #127】
生成AIによって、プレイするたびにまったく異なる環境が生み出されるゲーム「Oasis」。Oasisを開発するDecart社に投資したSequoia Capitalは、同社にGoogleとの共通点を見出しています。

今週の注目テックトレンド
GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。
「プレイするたび」に変化するゲーム
生成AIとオープンワールドを掛け合わせたゲームタイトル「Oasis」に注目が集まっています。同タイトルを開発するのはイスラエル拠点のスタートアップ「Decart」。著名VCのSequoia Capitalも出資する形で、今回2,100万ドルの資金調達を発表しています。一見するとシンプルなゲーム企業に見えますが、その背景にはAIチップ開発も絡めたハードウェア戦略を軸にした、生成AIの未来を切り拓く大きな可能性が見えます。
Oasisはマインクラフトのようなブロック調の世界観を持ちながら、生成AIによってリアルタイムにゲーム世界が構築されていくオープンワールドゲームです。動画生成によって描画されていくため、特定のゲームコンソールを必要としないPC向けのタイトルになっています。
プレイヤーがゲームをプレイするたびにまったく異なる環境が生成され、一人ひとりにパーソナライズ化されたワールドが提供されます。従来のゲームは、固定されたステージやストーリーが中心でしたが、Oasisでは膨大なマインクラフトのプレイ動画がAIのトレーニングデータとして活用されており、プレイヤーの行動に応じて環境や物語がダイナミックに進化しています。
Oasisの核となる技術は、プレイヤーとのインタラクションをリアルタイムで解析し、学習する生成AIです。AIは、プレイヤーの行動データをもとに、次の展開を予測しながら環境を構築します。これにより、プレイヤーが何度でも新鮮な体験を得られる、進化するゲームプレイが実現できます。
たとえば、森で過剰に木を伐採すると、周辺の生態系に影響を与え、砂漠化が進むなどの変化が起こります。逆に、緑化活動を行えば、周囲に新たな生態系が生まれる可能性もあります。さらに、NPC(Non Player Character:プレイヤーが操作しないキャラクター)も単なる設定された動きに留まらず、プレイヤーとの対話や行動を通じて新たなスキルを学び、より複雑なストーリーや建築物を生み出すことが可能です。
敵キャラクターでさえ、プレイヤーの防御戦略に適応するなど、プレイヤーの行動に応じた変化を遂げます。このようにOasisは、プレイヤーが能動的に作り上げ、環境変化とプレイヤー行動が相互に影響を及ぼし合う生成AIゲームとして注目されています。
ゲームの先に見据えるのは「動画」市場
Oasisの特徴は、フレーム単位での動画生成技術が使われている点です。テキストから映像を生成する従来のAIモデルとは異なり、プレイヤーのキーボードやマウスの入力情報に基づき、1フレームずつリアルタイムに動画生成を行い、ワールドを構築しています。この動画生成技術を最大限実行するため、Etched社とパートナーシップを組み、AI専用チップ「Sohu」を開発しました。Sohuは、生成AI時代に最適化された革新的なチップであり、従来のGPUが抱える課題を克服する設計が施されています。
Etchedの記事によると、同社がOasisを開発するDecart社とともに狙う市場として「インタラクティブ動画」を挙げています。現在、ソーシャルメディア、ビデオ通話、ストリーミングなど、インターネットトラフィックの70%以上が動画であり、10年以内にはインターネット上の動画コンテンツの大半がAIによって生成された「インタラクティブ動画」に置き換わると語っています。
この未来を見据えて投入された最初のプロダクトがOasisであり、その基盤ハードウェアとしてSohuの普及に努めているのがEtchedとDecartです。ソフトウェア(Oasis)からハードウェア(Sohu)まで一気通貫に抑えることで、生成AIによってリアルタイムに描画がされた「インタラクティブ動画」コンテンツがより速く、より安価に、そしてより大規模に普及する未来を実現しようとしています。
インタラクティブ動画が普及した未来では、よりパーソナライズ化がされた没入感の高いコンテンツが当たり前になっています。その起爆となるのが、Oasisが参入するオープンワールドゲームというわけです。
Sequoiaが見出した、Googleとの共通点
Decartの可能性にいち早く目を付けたのがSequoia Capitalです。同社はGoogleへの初期投資で知られていますが、同じような投資モチベーションをDecartに感じているとブログ記事で語っています。同記事では、当時Googleが競合を凌駕した理由に、単なる検索ランキングアルゴリズムやミニマリストなデザインに留まらない、ハードウェア技術が挙げられると語っています。同様に、ハードウェア最適化の技術を駆使したDecartにも、生成AI市場を勝ち抜く可能性があると評価しました。
また、Decartの共同創業者であるDean Leitersdorf氏とMoshe Shalev氏が、それぞれユニークな経歴を持っている点もSequoiaは評価しています。Dean氏は23歳でイスラエルの名門テクニオンで博士号を取得し、分散コンピューティングの国際会議で論文賞を受賞しました。
Moshe氏はイスラエル国防軍のエリート部隊「Unit 8200」でリーダーシップを発揮し、複雑な問題解決に定評があります。この2人がAI分野で未解決の課題に取り組むために手を組んだことは、Sequoiaにとって大きな魅力だったそうです。
Oasisのような生成動画ベースのゲーム開発が主流となった場合、従来は数か月から数年かかるプロトタイプ開発がAIを活用することで数週間に短縮される可能性があります。小規模なチームでも大規模なタイトルに挑戦する道が広がるかもしれません。加えて、既存のゲームプレイ動画をAIのトレーニングデータとして活用すれば、ゲーム会社が新たな収益源を確保する道も開かれるでしょう。
Oasis及びDecartからは、過去のコンテンツが単なるアーカイブではなく、将来の生成AIプロジェクトの基盤として再利用可能になり、IPビジネスの新たな収益軸となる未来が見えてきます。日本の生成AIスタートアップ業界にも、この動向を汲み取った新たなトレンドが生まれるかもしれません。
11月5日〜11月18日の主要ニュース

イーロン・マスク氏率いる「xAI」、10万個のNvidiaチップ購入を目指し最大60億ドルの資金調達中
イーロン・マスク氏が率いる「xAI」が、500億ドルの評価額で最大60億ドルの資金を調達していると報じられた。 中東の政府系ファンドから50億ドル、その他の投資家から10億ドルが見込まれている。
xAIは昨年11月、『銀河ヒッチハイク・ガイド』をモデルにしたというチャットボット「Grok」を発表している。 このチャットボットは2カ月間のトレーニングを経てリリースされ、インターネットに関するリアルタイムの知識を持っているとのこと。今回の調達資金は10万個のNvidia製チップの獲得に使われるだろうと報じられている。— 参考記事
コンパクト設計のエアタクシー「ePlane」、シリーズBラウンドで1,400万ドル調達
インドを拠点に都市交通用に設計されたコンパクトな「空飛ぶタクシー」を開発する「ePlane」は、シリーズBラウンドで1,400万ドルを調達した。 Speciale InvestとAntares Venturesが共同でリードを務め、Micelio Mobility、Java Capital、Samarthya Investment Advisors、Redstart、Anicut、Naval Ravikant氏も出資した。
従来型のエアタクシーのような翼幅12~16mの大きさとは違い、8mほどとコンパクトな設計になっている。 これにより狭いスペースへの着陸が可能になり、1回の充電で何度も短距離の移動(1日最大60往復)が可能になるという。 通勤客は移動時間を85%も短縮でき、料金は通常Uberで支払う料金の2倍以下に抑えられると報じられている。 — 参考記事
介護者支援プラットフォーム「Homethrive」、2,000万ドル調達
介護者とその家族ための支援サービスを提供する「Homethrive」が、2,000万ドルを調達した。 TELUS Global Venturesと7Wire Venturesが共同リードで、Pitango HealthTech、Human Capital、Outcomes Collective Growth Capital、Allianz、The K Fundも投資した。
同社は介護家族向けに、雇用主とのやりとり、医療保険制度サポートなど総合的なケアソリューションを提供している。また、従業員が質の高い育児や終末期のサポートを見つけたり、認知症やメディケア、障害、慢性疾患を持つ人のケアをナビゲートしたりするためのツールやリソースも提供している。— 参考記事
DeFiプラットフォーム「Folks Finance」、評価額7,500万ドルで320万ドル調達
複数のブロックチェーンでデジタル資産の貸し借りや管理を可能にするDeFiプラットフォーム「Folks Finance」は、シリーズAラウンドで7,500万ドル評価額により320万ドルを調達した。 Borderless Capitalがリードを務め、SOVO Ventures、Mapleblock、Algorand Venturesが追加支援した。 同社は総額620万ドルを調達している。
同社は今回の調達資金を使って、xChainアプリのクロスチェーン展開を加速させる意向。xChainアプリは、アバランチ、ベース、イーサリアム、アービトルム、BNBチェーンを含む複数のネットワークで、ユーザーが貸し借りや取引を行えるようにする世界初のソリューション。近い将来、さらに多くのネットワークを統合する計画もある。2022年のメインネット開設以来、現在では毎月1万5,000以上のアクティブ・ウォレットと接続され、2億2,000万ドルというTVLを獲得しているという。— 参考記事
建築AIプラットフォーム「Gendo」、シードラウンドで550万ドル調達
建築家やデザイナーがスケッチ、2D図面、またはテキスト説明から高品質のビジュアライゼーションを素早く作成できるウェブベースのプラットフォーム「Gendo」は、PT1とLEA Partnersが共同リードし、Koro CapitalとConcept Venturesらが参加したシードラウンドで550万ドルを調達した。
GendoのブラウザベースのAIソリューションにより、ユーザーは迅速に画像を生成し、カスタマイズすることができる。 1回のビジュアライゼーションにかかる平均時間はわずか8分で、従来の手法の100倍以上であるという。 Gendoは世界中で3,500人以上のユーザーを獲得し、5,000のプロジェクトで合計5万以上の画像を生成している。— 参考記事