ノーベル賞も後押しする、バイオ業界の「生成AI化」トレンド【GB Tech Trend #125】
独自のタンパク質生成AIモデルを開発するBasecamp Researchや、バイオメディカル研究者向けのAIプラットフォームを提供するNExtNetなど、バイオ×データに挑むスタートアップが注目を集めています。
執筆: Universe編集部
今週の注目テックトレンド
GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。
ノーベル賞の波に乗るスタートアップ
2024年のノーベル賞に、タンパク質の立体構造を予測するAI「AlphaFold」が選ばれ、バイオテック業界での生成AI活用にさらなる注目が集まっています。今回、6,000万ドルの資金調達を発表した「Basecamp Research」は、まさにこのトレンドに乗り、AlphaFoldに追従する生成AIを開発しようという意欲的なスタートアップです。
Basecamp Researchは、AlphaFold2のオープンソースアルゴリズムの上に構築したAIモデルを活用することで、独自のタンパク質生成AIモデル「Basefold」を開発するバイオテックスタートアップです。Basefoldはすでに新製品開発において、低温で汚れを落とす洗剤用酵素の設計や、持続可能な新しい布用染料の開発などに使われています。
AlphaFoldと比較してより精度の高い生成能力を持っているとされ、タンパク質構造の生成において従来の研究よりも迅速かつ正確なパフォーマンスを挙げているとのことです。
強みは、独自の一次データ
Basecamp Researchの強みは独自の一次データを獲得するためのデータネットワークにあります。25カ国にわたる100以上のパートナーシップを通じて、広範なデータベースを構築しているだけではなく、世界中の研究者と協力して多様な生物のゲノム解析を行い、ロイヤリティを支払うことで独自の解析データを収集。既存データベースを活用するだけでなく、研究者から解析データを買い取ることでエコシステム構築にまで手を伸ばしている点が評価されています。
TechCrunchでは、Basecamp Researchが目指す製品ビジョンについても言及。現在はエンタープライズ向けのプロダクトが中心ですが、今後は「バイオテック向けChatGPT」の開発へと舵を切ることを考えているようです。
「バイオ×データ」に挑む企業は他にも…
Basecamp Researchの競合に挙げられるのが「NExtNet」です。同社は主力プロダクトとして、バイオメディカル研究者がプログラミングや統計学を習得していなくとも、ChatGPTのように自然言語で複雑な質問回答のやり取りができたり、直感的にデータ間の繋がりを理解できたりするプラットフォーム「Sapiens」を開発しています。
Basecamp Researchと比較して、NExtNetはバイオメディカル領域に強い印象です。同社が取り組む創薬コストの問題に関して言えば、30年前には最大3億ドルかかっていたコストが、現在では24億ドルにまで膨らんでいるとも指摘されています。
その理由は、過去に何度も創薬のトライアンドエラーが繰り返され、実証が進んできたからこそ、より難易度の高いフェーズに辿り着かない限り製品化されないためだと言われています。こうした創薬コストの高騰に関して、生成AIというソリューションで挑もうとしているのがNExtNetです。
両社のテクノロジーが作る未来
両社のアプローチに違いはありますが、いずれもバイオテック業界における非構造化データの問題解決を目指しています。
こちらの記事によると、世界のデータの95%は過去5~10年ほどの期間に生み出されたものです。また生物医学データにおいては、数千万の科学出版物や特許、臨床試験の記録、遺伝子配列など、多岐にわたるデータが存在していますが、これらは分散していて統合や解析が困難なため、その活用は限定的でした。さらにこちらの記事では、バイオデータはいまでもわずか0.5%しか解析されていないと指摘されています。
こうした非構造化データを生成AI技術により整理・解析を進めて汎用性を持たせ、人類の新たな発明を急速に促進させようとしているのが、Basecamp ResearchとNExtNetなのです。
どちらのサービスも、近い将来には私たち一般ユーザーが自然言語で直感的に操作できるインターフェースになるのは想像に難くありません。2016年に開発が始まったAlphaFoldが10年を待たずにノーベル賞を獲得したいま、「バイオ業界のGPT化トレンド」はより顕著になり、数年以内に中高生の化学実験にも使われるほど手軽なものとなっている未来も想像できそうです。
10月8日〜10月21日の主要ニュース
ファッションプラットフォーム「CULT MIA」200万ドル調達、GMV4倍に拡大
世界中のインディペンデント・ファッションデザイナーのコレクションを販売する小売プラットフォーム「CULT MIA」は、H&M Group Ventures、Fuel Ventures、Morgan Stanley、David Wertheimerらからシードエクステンションラウンドで200万ドルを調達した。 同社はこれまでに合計500万ドルを調達している。
2024年の第3四半期の売上高は昨年日で倍成長しており、GMVについては過去12か月で4倍成長を達成していると報じられている。— 参考記事
ハイパーリアリスティックなデジタルアバターを開発する「Beyond Presence」、310万ドルを調達
複雑な質問回答、インタビューの実施、製品デモのタスクを実行できるハイパーリアリスティックなデジタルアバターを開発する「Beyond Presence」は、プレシリーズラウンドで310万ドルを調達した。投資家にはHV Capital、10x Founders、Alba VCらが挙げられる。
同社はすでに300以上の顧客企業をウェイトリストに抱えているという。カスタマーサービスやサポート、人材採用、営業、Eラーニングなどの分野で早期の応用が期待されている。 これらはすべて、企業がより多くの人材を雇用し訓練することなく、ユーザーとのインタラクションを拡大したいと考えている分野である。— 参考記事
ゲーム開発者向けフィードバックAIツール「Live Aware」、シードラウンドで480万ドルを調達
ゲーム開発者が開発の全段階でプレイヤーからのフィードバックを収集・分析するのに役立つAI搭載ツールを提供する「Live Aware」は、Transcendがリードし、Andreessen HorowitzとLifelike Capitalらが出資したシードラウンドで480万ドルを調達した。
同社はプレイヤーのコメントだけでなく、Discordのような場所からの会話、アンケートの結果など、複数のチャンネルからのデータを統合し、プレイヤー体験の全体的なビューを提供している。 初期のプロトタイプから発売後のアップデートに至るまで、開発ライフサイクル全体を通して一貫して活用できるサービスとなっている。— 参考記事
ゼロ知識証明スタートアップ「zkPass」、1億ドルのトークン評価額で1,250万ドル調達
元データを非公開にしたまま情報証明できるゼロ知識証明スタートアップ「zkPass」は、1億ドルのトークン評価額で1,250万ドルの資金調達をシリーズAラウンドで実施した。 投資家には、dao5、Animoca Brands、Flow Traders、Amber Group、IOBC Capital、Signum Capital、MH Ventures、WAGMI Venturesが含まれる。
zkPassはゼロ知識証明ベースのデータ検証プロトコルであり、ユーザーはIDや財務記録などの実際のデータを共有することなく情報を証明することができる。 銀行やソーシャルメディアのアカウントなど、個人情報が保存されているウェブサイトから「証明」を生成することができる。現在、70以上のウェブデータソースから生成された200万以上の証明を持っているとのこと。— 参考記事
アフリカの暗号通貨取引を推進する「Yellow Card」、Blockchain Capitalリードで3300万ドル調達
アフリカ20カ国の個人が自国通貨を使って暗号通貨を売買・保管できるようにする「Yellow Card」は、Blockchain Capitalがリードを務め、Polychain Capital、Block, Inc.、Winklevoss Capital、Third Prime Ventures、Castle Island Ventures、Galaxy Ventures、Blockchain Coinvestors、Hutt Capitalらが参加したシリーズCラウンドで3300万ドルを調達した。 同社は総額8,800万ドルを調達している。
現在Yellow Cardは、アフリカおよび国際的な約3万社のビジネスと連携し、主にステーブルコインを通じた支払いや財務管理を支援している。また、同社の取引高は昨年初めの17億ドルから30億ドル超へと急増。 その結果、通貨間のスプレッドによって得られる同社の収益は、2023年1月以降7倍に増加しているとのこと。— 参考記事