キーワードは“見えないSNS”。カレンダー共有アプリに投資が集まるわけ【GB Tech Trend #123】

友人同士でイベントを企画、スケジュールを共有できるソーシャルアプリ「Howabout」。大手SNSのプライバシー問題や個人情報の懸念などを受けて注目される「ダークソーシャル」のトレンドを反映したサービスとして、期待が高まっています。

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800万ドルの調達を発表した「Howbout」(Image Credit: Howbout)

執筆: Universe編集部

今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

再び注目を集める“見えないSNS”

2010年代に登場した対Facebookアプリ「Path」は、今なおSNS市場を語る際に引き合いに出されることがあるほど、秀逸なアイデアでした。

それまでのソーシャルメディアは、オープンで誰もがアクセスできる情報共有を重視していましたが、「Path」は最大150人の友人や家族といった限られたメンバーとのプライベートなやり取りに特化。これは、ユーザーがより親密でプライベートな空間を求めるというニーズを反映しており、SNSの世界に新しい選択肢を提示するものでした。

このトレンドは「ダークソーシャル」とも呼ばれ、ユーザーがインターネット上で共有する情報の多くが、オープンなソーシャルメディアではなく、メッセンジャーアプリ、Eメールに挙げられるプライベートなチャネルを通じて行われる現象を指します。

ただ、この記事が出た2012年当時はFacebookやTwitterが全盛期を迎えつつあった時期です。ユーザーは積極的に自分の活動や考えを公開して、世界中の人々と繋がることに価値を感じており、ダークソーシャルのコンセプト自体は少し突飛な考えとして受け入れられていたかもしれません。

しかし昨今、プライバシー問題や個人情報の取り扱いに関する懸念が高まるにつれ、ユーザーはより制限された環境でのコミュニケーションを求めるようになりました。いわば見えないSNSの価値に、再び注目が集まっているとも言えます。

投資家を惹きつけるHowaboutの戦略

ダークソーシャルの考えをサービス化したアプリとして「Howbout」が挙げられます。Howboutは、友人同士でイベントを企画、スケジュールを共有できるソーシャルカレンダーアプリであり、数人規模の小さなコミュニティ内での利用を前提としています。

今回Howaboutは、800万ドルの資金調達を発表しています。リード出資を務めたのは、消費者向けのソーシャルアプリスタートアップへの投資を多く行うGoodwater Capitalで、投資家陣を見るだけでもHowboutに市場の期待が集まっていることがわかります。

同アプリの成長戦略は、友人間でのリファラルを通じてユーザー数を増やし、小さなコミュニティをいくつも獲得していくことで、ユーザーの定着を図るというものですこの戦略は、「ハイブ戦略」と呼ばれています。ミツバチの巣のように、小さなコミュニティを複数形成し、それらが合わさることで大きなサービスを形成するという考え方に基づいています。Snapchat、BeReal、Telegram、Discordなどのプラットフォームも、友人同士のクローズドなやり取りを中心とした小さなコミュニティの積み重ねにより、現在の規模に成長しました。

ハイブ戦略は、ユーザーがプライベートで安心して利用できる環境を提供するクローズドコミュニティ系サービスとの相性が良いとされています。ユーザー数が増えることで、サービスの価値が上がる効果「ネットワークエフェクト」が強く働き、1度形成されたコミュニティから離脱しにくくなるのです。

似たアプローチのサービスは他にも…

Howboutは、主にビジネスシーンで使われるスケジュールツール「Doodle」や「Calendly」のユースケースに、クローズドコミュニティの要素を掛け合わせることで、独自のプロダクト価値を築き上げています。

従来、友人とのやり取りはMessengerやTelegram、SMSなどのダークソーシャル上で行われていましたが、スケジューリングをする場合はDoodleのような別のツールを使う必要がありました。そこに登場したのがHowboutというわけです。

こうした、ビジネスで使われてきたサービスにクローズドコミュニティの考えを掛け合わせたようなプロダクトが徐々に登場してきています。たとえば、友人や家族との間で発生するちょっとしたToDoを共有する「Karo」が挙げられます。生産性ツール(ここではToDo)に、クローズドコミュニティのサービス要素を掛け合わせ、消費者向けにアレンジしているのがKaroであり、アプローチがHowboutと似ています。

また、クローズドコミュニティ全般に目を向けると、お気に入りスポット情報をシェアできる「Atly」、グループジャーナルの「Waffle」や、エンタメやファッションの話題別にチャットルームが用意されている「Amino」など多岐にわたるサービスが登場しています。

日本でも、インフルエンサーの多くがYouTubeやXで情報発信をしつつ、DiscordやLINEグループなどのクローズドコミュニティへ送客し、マネタイズする流れが一般化しつつあります。今回取り上げたのはカレンダーやスケジューリングといったテーマでしたが、そのほか生活シーンに根付いたさまざまな領域にダークソーシャルの世界観を組み合わせたものが出てくるかもしれません。

9月10日〜9月23日の主要ニュース

1,800万ドルの調達を発表した「Rebelstork」(Image Credit:Rebelstork)

ベビー用品専門のオンラインマーケットプレイス「Rebelstork」、シリーズAラウンドで1,800万ドル調達

有名ブランドのオープンボックスや過剰在庫のベビー用品を専門に販売するオンラインマーケットプレイス「Rebelstork」は、Maveronがリードを務め、Serena VenturesとMarcy Venture Partners、Golden Venturesらが参加したシリーズAラウンドで1,800万ドルを調達した。

同社はHudson’s Bay、Million Dollar Baby、BabyBjörn、4moms、Targetを含む2,500以上のブランドの過剰在庫や返品を処理するためにパートナーシップを結んでいるという。また、同社は年間300%以上の収益を上げているという。— 参考記事

オンライン会議の自動書き起こしAIツール「Fathom」、シリーズAラウンドで1,700万ドル調達

オンライン会議の自動書き起こし、ハイライト、要約するAIツールを提供する「Fathom」は、Telescope Partnersがリードを務めるシリーズAラウンドで1,700万ドルを調達した。

同社によると、過去2年間で売上は90倍、利用量は20倍に増加したという。 現在8,500社以上がHubSpotとの統合を利用していると述べている。フォローアップ・メールのアクション・アイテムや下書きを自動的に作成するなどの多くの新機能が追加されており、これらの機能は月額19ドルからの有料プランで提供されている。参考記事

AI気象予測ツール「Brightband」、シリーズAラウンドで1,000万ドル調達

AI気象・気候予測ツールを提供する「Brightband」は、Prelude Venturesがリードを務め、Starshot Capital、Garage Capital、Future Back Ventures、Preston-Werner Ventures、CLAI Venturesらが出資したシリーズAラウンドで1,000万ドルを調達した。

未だに気象予測や気候モニタリングの技術は、何十年も前の統計モデルや数値モデルをベースにしており効率的ではない。 そこで大量のデータからパターンを導き出すことに長けている同社AIを活用し、長年にわたる世界中の気象パターンや観測データをAIに学習させることで、驚くほどの精度で今後の事象を予測することを目指しているという。— 参考記事

データセンター向け液冷技術「LiquidStack」がシリーズBエクステンションで2,000万ドル調達

データセンター向けに高度な液冷技術を開発しており、従来の空冷システムよりも効率的に熱を管理する「LiquidStack」は、Tiger GlobalからシリーズBエクステンションラウンドとして2,000万ドルを調達した。

同社は情報技術ハードウェア、通信、ブロックチェーンシステム向けの液冷に特化しており、同社の液冷ソリューションは、拡張性が高く、環境的に安全なハイパースケール、コロケーション、エンタープライズ、エッジ、ブロックチェーンデータセンターのバックボーンとして機能し続けている。— 参考記事