「エシカル消費」で拡大なるか?欧州ライブコマースの新トレンド【GB Tech Trend #122】

欧州で誕生したライブコマース×古着の新サービス「Tilt」。Z世代を中心に広まるエシカル消費のトレンドを追い風に急成長なるか、注目が集まっています。

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1,800万ドルの調達を発表した「Tilt」(Image Credit: Tilt)

執筆: Universe編集部

今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

過熱する市場に、新星が登場

かねてから注目される欧米ライブコマース市場。中国ではTikTokを筆頭にライブ動画配信を通じたショッピング市場が急成長しており、このトレンドを欧米圏へ持ち込もうと、AmazonやWallmartなどの大手からスタートアップに至るまで、さまざまな企業がライブコマース市場へ参入してきました。

今回紹介する「Tilt」はイギリスを拠点に、古着を扱うライブコマースアプリとして1,800万ドルの資金調達を発表しました。まだ中国ほどの爆発的な成長を見せていない、欧米ライブコマース市場においてTiltが目をつけたのがZ世代が持つ古着カルチャーです。

「エシカル」の波が追い風に

ヨーロッパではZ世代を中心に古着を積極的に取り入れるエシカル消費のマインドが強くあります。ファストファッションを支持し、洋服を大量生産をしていた世代に対するカウンターカルチャーとしてのエシカルな姿勢が受け入れられているのです。それを象徴するように、古着マーケットプレイス「Depop」は3,500万ユーザーを獲得するほどに成長しています。

Depopではセンスの良い古着を集め、自分ならではの世界観を表現するキュレーターが多く登録しています。月に1万ドルを売り上げるユーザーも登場しており、起業家精神溢れる古着クリエイターコミュニティによって、Depopは世界的なアプリとなりました。

Tiltが市場機会と捉えるのは、まさにDepopと同じユーザー層です。エシカルブームを追い風に台頭する古着キュレーターの活躍の場を「ライブ配信」へと拡張させています。配信中に景品を出品する機能を実装して視聴時間を伸ばす施策など、ライブ配信ならではのグロースハックを繰り返しながら、「ライブ配信版Depop」のポジション確立を目指しているのがTiltです。

a16zも期待するライブコマースの未来

Tiltが成長するための鍵は、著名VCのAndreessen Horowitz(a16z)が提唱する、ライブコマース市場の未来を切り拓くコンセプトにあります。a16zは、魅力的な取引の場である「コマース」、誰にも引けを取らないユニークな「コンテンツ」、楽しみながら視聴する「エンターテイメント」、の3つを踏まえているサービスのジャンルを「ショップテインメント/Shoptainment」と提唱。出品者の人となりを聞けたり、実物に近い商品体験が購買率を高めると述べています。

このコンセプトをTiltに置き換えると、エシカルブームや古着にテーマを絞った「コマース」、古着をキュレートして独特のコレクション観を発信するユーザーが持つ「コンテンツ」、そしてDepopにはない直接ユーザーと対話してコミュニケーションを深められる「エンターテイメント」の3つを満たしています。

アメリカでは、a16zが出資した「Whatnot」や、中国のコマースアプリ体験を米国へ持ち込んだ「TalkShopLive」などのスタートアップが登場しています。いずれもショップテインメントの文脈に沿っていますが、Tiltとの違いは「古着」のような特定の分野に絞らずにライブコマースを楽しめるプラットフォーム型のアプローチを採用している点にあります。幅広い市場、そしてユーザー層をいち早く獲得できる優位性を持っていると言えるでしょう。

古着市場では「Poshmark」や「Threads」などのスタートアップの成功事例もあることから、Tiltの狙うエシカル/古着マーケットにはまだまだ期待ができそうです。イギリスから爆発的に広まり、Z世代に受け入れられた「Depop」のようなテーマ特化型のアプローチのTiltが、欧米のライブコマース市場待望の成功事例となるか、注目が集まります。

8月27日〜9月9日の主要ニュース

3,000万ドルの調達を発表した「Unlock Technologies」(Image Credit:Unlock Technologies)

ホームエクイティ企業「Unlock Technologies」、3,000万ドル調達

Unlock Technologiesは、ホームエクイティ契約(HEA)を提供する金融テクノロジー企業。住宅ローンを組まずに住宅の資産価値を現金化できるサービスで、月々の支払いや利息はなく、将来の住宅価値の一部と交換に一括で現金を受け取ることができる。

Unlockは、D2 Asset Managementから3,000万ドルのシリーズB資金調達を完了し、さらに2億5000万ドルの資本コミットメントを獲得した。Saluda Grade、Second Century Ventures、REACHも資金調達に参加している。Unlockは前年比98%の成長を達成し、現在14州で利用可能だが、全国展開を目指している。

参照元:HousingWire

細胞培養技術を用いた新しい綿花農業「GALY」が3,300万ドル調達

Galyは、ボストンを拠点とする気候テクノロジースタートアップで、ラボで育てた綿花の技術を開発している。同社の技術は、実際の綿花植物から始まり、その構造と特性を保持しながら、カスタマイズ可能な品質の綿花を生産する。

Galyは、Bill Gates氏のBreakthrough Energy Venturesが主導する3,300万ドルのシリーズB資金調達を完了した。この資金調達には、大手アパレルブランドのInditex(Zaraの親会社)とH&Mも参加している。

参照元:Yahoo Finance

AIを活用した新たな検索エンジンを目指す「You.com」が5,000万ドル調達

You.comは、複雑な質問に対するAI検索に特化したサービス。同社は、Googleなどの大手検索エンジンが苦手とする複雑な質問に対して、10倍以上優れた回答を提供することを目指している。

You.comのシステムは、自然言語で指示を受け、必要に応じてインターネット検索を行い、適切な情報や技術を用いて回答を生成する。例えば、新薬の副作用に関する文献をまとめたり、投資計算を行ったりすることができる。また、複数のユーザーが共有AIワークスペースで協力できる「マルチプレイヤー」AI機能も提供している。

同社は、GeorgianがリードするシリーズB資金調達で5,000万ドルを調達した。Day One Ventures、DuckDuckGo、Nvidia、Salesforce Ventures、SBVAなども参加している。

You.comは、他社が無料サービスに走る中で、有料顧客を着実に増やしている。年初と比べて5倍以上の登録者を獲得し、一部の企業では1日に何百万回もYou.comが使用されていると述べている。

参照元:TechCrunch

スプシ向け生成AIスタートアップ「Paradigm」が200万ドル調達

Paradigmは、生成AIを活用して従来のスプレッドシートを刷新するスタートアップ企業。22歳のペンシルベニア大学卒業生Anna Monaco氏が創業し、Y Combinatorの支援を受けている。

Paradigmのソフトウェアは、AIエージェントを使用してウェブ上の情報を収集し、自動的にスプレッドシートのセルに入力する。1分間に500セルのデータを入力できる能力を持ち、手動でのデータ収集と比較して1000倍の速度を実現している。

同社は、Y Combinator、Soma Capital、Pioneer Fundなどから200万ドルのシード資金を調達した。個人投資家には、Dropboxの共同創業者Arash FerdowsiやLangChainの共同創業者Harrison Chaseなどが名を連ねている。

Paradigmは、Google、スタンフォード大学、Bain、McKinseyなどから数百人の早期ユーザーを獲得している。月額500ドルからサービスを提供しており、現在はウェイトリストを通じて新規ユーザーを受け付けている。

参照元:VentureBeat

次世代原子力発電所の開発に取り組む「Last Energy」、4,000万ドル調達

Last Energyは、20 MWのマイクロ原子力発電所を開発する米国のスタートアップ。同社は、24ヶ月以内に製造、輸送、建設可能な小型原子炉を大量生産することを目指している。

Last Energyは、シリーズB資金調達で4,000万ドルを調達し、創業以来の総調達額は6,400万ドルとなった。投資家にはGigafundやAutodesk Foundation、複数のファミリーオフィスが含まれる。

同社は、2026年の初号機稼働を目標に、80基の商業契約を締結している。そのうち39基はデータセンター向けで、AI・クラウドコンピューティングの高エネルギー需要に対応する。Last Energyの目標は15年以内に1万基の原子炉を建設することだが、現時点で稼働中の原子炉はない。

同社のPWR-20と呼ばれる発電所は、LEGOのように組み立てられる数十個のモジュールで構成されている。Last Energyは発電所を販売せず、長期の電力購入契約を通じて顧客に電力を販売するビジネスモデルを採用している。

参照元:NucNet

子供向けAIブラウザを開発する「Hello Wonder」が210万ドル調達

Hello Wonderは、子供向けのAI搭載ブラウザ/コンパニオン。Google、Amazon、Disneyなどの大手テック企業出身の3人の創業者によって設立された。

同社のiPadアプリは、AIチャットボットを通じて子供たちが質問をし、安全な回答、動画、インタラクティブな体験を得られるようにしている。親は完全にアプリをコントロールでき、子供たちがどのようなコンテンツを消費しているかについての洞察を得ることができる。

Hello Wonderは、Designer Fund、a16z Scout Fund、Ground Up Ventures、Chasing Rainbowsなどから210万ドルの資金を調達した。個人投資家には、子供向けコンテンツスタジオPocketWatchのCEO Chris Williamsなどが含まれる。

アプリは5歳から10歳の子供をターゲットとしており、親がAIに自然言語で子供に見せたいコンテンツや見せたくないコンテンツを指示できる。現在は無料で提供されているが、将来的にはサブスクリプション制を導入する予定。

参照元:TechCrunch

デジタルアーカイブスサービス「MirrorWeb」、6,300万ドルを調達

MirrorWebは、2016年に設立された英国発のソフトウェア企業。金融サービス企業、政府機関、その他の規制産業向けに、統合されたコミュニケーション監視ソフトウェアを提供している。

同社のInsightプラットフォームは、ウェブサイト、モバイル、メール、インスタントメッセージ、ソーシャルメディアなど、様々なチャンネルにわたるコミュニケーションのアーカイブ、監視を可能にする。このプラットフォームは、デジタルコミュニケーション規制の遵守を促進し、企業がコンプライアンスを維持し、監査に備えることを支援する。

MirrorWebは、Mainsail Partnersから6,300万ドルの資金を調達した。この投資により、MirrorWebは製品開発をさらに加速し、顧客サポート組織を拡大する予定である。

参照元:Tech.eu