進化が止まらない「映像生成AI」3つのトレンド【GB Tech Trend #119】

プロの映像クリエイターが使える生成AIサービスの開発を目指す「Beeble AI」。こうした映像生成AIを取り巻く3つのトレンドを考察します。

進化が止まらない「映像生成AI」3つのトレンド【GB Tech Trend #119】のカバー画像
475万ドルの調達を発表した「Beeble AI」(Image Credit: Beeble AI)

執筆: Universe編集部

今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

プロも認める「映像AI」を目指す

まるで本物の映像のように錯覚してしまう動画生成AI「Sora」や「Runway」に注目が集まっています。しかし、いまだにこれらのAIモデルは、ランダムなコンテンツをしばしば生成してしまうなど改善点も多い状況です。プロフェッショナルが使うサービスとなるためには、たとえば元映像素材を勝手にAIが編集しないなどの、高いクオリティと使い勝手が求められます。

今回紹介するVFXスタートアップ「Beeble AI」は、こうした課題を解決した生成AIを開発し、クリエイターが完全に制御できる映像制作サービスの確立を目指しているスタートアップです。このたび475万ドルの資金調達を発表しました。同社は現在、グリーンバックにAIを活用したバーチャルライティングサービスを軸に事業を展開しています。今後は先述したようなプロクリエイター向けの映像生成AIの提供を目指しており、今回の調達はその開発に使われる予定です。

「映像生成AI」3つのトレンド

Beeble AIのような映像生成AIには、3つの新たなトレンドが起きています。

1. 個人向けサービスの発展

1つは、個人向け映像編集AIサービスの普及ですたとえば「Captions」などが先行事例として挙げられます。Sequoia CapitalやAndreessen Horowitz(a16z)らが出資するスタートアップで、Instagramなどで活躍する動画クリエイター層をターゲットに、手軽にAIを使った編集を行えるオールインワン編集サービスを提供しています。スマホファーストで活躍する、アマチュア系クリエイターなどがサービス対象です。

こうした消費者向けサービスの登場にあわせて、法人向け領域も追従して盛り上がる現象がこれまでも多くの市場で見られました。たとえばSlackのようなサービスも、FacebookやX(旧Twitter)などのソーシャルでのチャットコミュニケーションが広く普及していたからこそ、法人向け領域でも受け入れられたと言えるでしょう。Beeble AIが、消費者向けの映像系生成AIの利活用がさらに進むと考えているのであれば、このタイミングでの開発を急ピッチで進めるのも頷けます。

2.大手による買収

2つ目は大手企業による買収です直近では5月にCGソフトサービス大手「Autodesk」がAI VFXスタートアップ「Wonder Dynamics」を買収しています。またBeeble AIとは少し領域が異なりますが、動画編集サービスの「Frame.io」はAdobeに買収されました。いずれも大手サービスの手の届かないバリューを提供することで、Exitに結びつけることに成功しています。こうしたExit実績が続いているのも、映像生成AIに関するポジティブなトレンドの1つです。

3.プラットフォーム化

最後は、プロダクトのプラットフォーム化です。プロダクトに複数の機能を付与し、当該領域のプラットフォームとなる拡大戦略はこれまでもまざまな分野で見られてきました。たとえば、a16zが出資する「Descript」はPodcastクリエイターのためのAI機能をバンドル提供し、プラットフォーム化を図っています。

Beeble AIは創業チームがAIバックグラウンドを強く持っていることもあり、現在は単一機能(バーチャルライティング)の提供に制限されています。しかし、ゆくゆくは映像編集に関わるあらゆる機能を持ち得るプラットフォームへ舵を切ることも見込めるでしょう。

また、バーチャルプロダクト(CGで描いた商品)を自然な形で映像内に差し込む、ポストプロダクションサービス「Ryff」の過去事例も参考になります。残念ながら、Ryffは生成AIトレンドの前だったこともありクローズしてしまいましたが、同社の事例に倣い、映像編集 + 広告市場に打って出る戦略も考えられそうです。この拡大戦略のとりやすさも映像生成AIへの期待を後押しする要因の1つと言えるでしょう。

Beeble AIのようなAIプロダクトは今後も多く登場するでしょうが、どこが覇権を握るのかに引き続き注目が集まります。

7月9日〜7月22日の主要ニュース

1.42億ドルの調達を発表した「Aven」(Image Credit:Aven)

クレジットカードスタートアップ「Aven」、ユニコーン企業へ

ホームエクイティ担保のクレジットカードを提供する「Aven」は、シリーズDラウンドで1億4,200万ドルの資金を調達した。 本ラウンドはKhosla VenturesとGeneral Catalystがリードし、既存の投資家であるCaffeinated Capital、Electric Capital、Founders Fund、The General Partnershipらが参加した。— 参考記事

血液検査のイノベーションを目指す「Truvian Health」7,400万ドル調達

血液検査プラットフォーム「Truvian Health」は、7,400万ドルの資金調達を発表した。 本ラウンドはWittington VenturesとGreat Point Venturesがリードを務め、既存の投資家であるDNS Capital、Medical Excellence Capital、Tao Capital、TYH Capital、7wireVenturesらが参加した。— 参考記事

「Standard Bots」、ロボットアーム開発で6,300万ドル調達

協働ロボットアームメーカー「Standard Bots」は、6,300万ドルの資金調達を発表した。 本ラウンドはGeneral Catalystがリードを務め、Amazon Industrial Innovation FundとSamsung Nextが参加した。— 参考記事

リアルタイムキャプションAIの「Nagish」が1,100万ドルの資金調達

電話内容のリアルタイムキャプションを提供するAIを搭載したプラットフォーム「Nagish」は、シリーズAラウンドで1,100万ドルの資金調達を発表した。 Canaanが本ラウンドをリードし、既存の投資家であるK5 Global、Tokyo Black、Cardumen Capitalなどが参加した。— 参考記事

「Element Bioscience」DNAシークエンシングでシリーズDラウンドにて2億7700万ドル調達

DNAシークエンシングスタートアップ「Element Bioscience」は、シリーズDラウンドで2億7,700万ドルの資金調達を発表した。 本ラウンドはWellington Managementがリードを務めし、Samsung Electronics、Fidelity、Foresite Capitalが参加した。— 参考記事

「Helsing」政府や業界向けAIツールで4億5000万ユーロ調達

民主主義を促進するために設計されたAIツールを政府や業界に提供するドイツ拠点の「Helsing」は、シリーズCラウンドで4億5,000万ユーロ(約4億8,880万円)を調達した。 本ラウンドはGeneral Catalystがリードを務め、Elad Gil、Accel、Lightspeed、Plural、Greenoaksが参加した。— 参考記事