GB Tech Trend #092: 過熱するAIアバタービジネス——資料作成「Synthesia」はユニコーンに

各スライドでアバターに話させたい文言を入れるだけでピッチ動画が完成します。

GB Tech Trend #092: 過熱するAIアバタービジネス——資料作成「Synthesia」はユニコーンにのカバー画像
9,000万ドルの調達発表した「Synthesia」(Image Credit: Synthesia)

執筆: Universe編集部

今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

AIアバターを使った合成映像を作成する「Synthesia」がシリーズCラウンドにて9,000万ドルの資金調達を発表しました。累計調達額は1億5.660万ドル、資金調達後の企業価値は10億ドルに達したと報じられています。新たなユニコーン企業の誕生です。

Synthesiaの主なサービス用途はプレゼンテーションやオンライン教育動画です。Keynoteやパワーポイントスライドを作成する要領で、好きなスライドのテンプレートを選択。その際、ライブラリーからAIアバターやBGM、発話言語も選択し、あとはスライドのデザインをカスタマイズしながら、各スライドでアバターに話させたい文言を入れるだけでピッチ動画が完成します。SynthesiaのAIは本物の俳優を使って訓練されており、俳優は自分の画像と声で生成されたビデオが作成される毎に報酬を受け取る仕組みとなっています。

Synthesiaの競合として挙げられるのは、昨年9月に1,060万ドルのシリーズA調達を発表した「Rephrase.ai」が挙げられます。また、D-IDが開発する「Creative Reality Studio」も競合となりえるでしょう。いずれのAIアバタースタートアップも、ChatGPT登場のトレンドに乗って大きく躍進をしてきました。

ただ、彼らはB2B領域のユースケースに特化していることがわかります。

AIアバターの技術が消費者向け市場で利用される瞬間を投資家・スタートアップは待ち望んでいることでしょう。たとえばSnapchatで180万フォロワー以上を持つ人気インフルエンサーCaryn Marjorie氏の声とキャラクターを模したAIアバター「Caryn.ai」が一時期有名となりました。

1分1ドルで同アバターとデートできるサービスで、立ち上げ1週間で7万ドル超の売上を達成したと報じられており、単純計算で月額単位に直すと28万ドル、年額では100万ドルを超える売上高になっています。この額はインフルエンサーの稼ぐ額としては十分と言えるでしょう。

消費者向けの潜在市場規模はすでに検証されているとも思われ、まずはCaryn.aiのようにインフルエンサーの収益拡張のためのAIアバターサービスが、Synthesiaの先に来ることが予想されます。動画市場でライブ配信アプリが多く誕生したように、アバター配信アプリのような業態の可能性もあります。また、この数年のトレンドでは、クリエイターがプラットフォームから売上一定額の手数料を取られるモデルではなく、クリエイターに必要な機能だけを月額で提供するSaaSが人気になっています(手数料売上30%のような形ではなく、機能利用料毎月30ドルのようなフラット価格モデル)。こうした観点から、クリエイターが自身のAIアバターを制作・配信する機能を月額提供するクリエイターSaaSなどのサービスアプローチが最も市場と相性が良いかもしれません。

6月13日〜6月26日の主要ニュース

2,500万ドルの調達を発表した「Captions」(Image Credit:Captions)
2,500万ドルの調達を発表した「Captions」(Image Credit:Captions)

AI映像編集アプリ「Captions」Sequioaやa16zらから2,500万ドル調達

AIを活用した映像編集アプリ「Captions」は、Kleiner Perkinsがリードし、Sequoia Capital、Andreessen Horowitz、SV Angelらが参加したシリーズBラウンドにて2,500万ドルを調達したと発表した。— 参考記事

核融合クリーンエネルギー「Focused Energy」1,100万ドル調達

核融合でクリーンエネルギーの生産を目指す「Focused Energy」は、Prime Moversがリードし、以前の投資家であるVCP Capitalも参加した、シリーズAの追加ラウンドにて1,100万ドルの資金調達を行ったと発表。同社は総額8,200万ドルを調達している。— 参考記事

セラピストの業務支援ツール「Heard」1,500万ドル調達

セラピストのバックエンドオフィス業務を効率化するためのソフトウェア「Heard」は、HeadlineをリードとするシリーズAの追加ラウンドで1,500万ドルを調達した。本ラウンドには、GGV Capital、Footwork、Founders’ Co-Op、Act One、Heron Rockなどの投資家も参加した。累計調達総額は2,630万ドルに及ぶ。— 参考記事

薬開発のデータリソース「Kanvas Biosciences」1,200万ドル調達

薬開発のためのマイクロバイオームデータリソースを構築する「Kanvas Biosciences」は、DCVCをリードとする1,200万ドルの資金調達を発表。本ラウンドには、Lions Capital、Cooke LLC、Uncommon Denominator、Triple Impact Capitalも参加した。— 参考記事

AI活用で医師と病院を支援「AvoMD」が500万ドル調達

AIを活用して臨床医や病院が専門分野に応じた独自アプリを作成できるようにする「AvoMD」はAlleyCorpをリードとする500万ドルのシードラウンドを発表。本ラウンドにはLas Olas、Epsilon Health、MedMountain Venturesも参加した。— 参考記事

大学とコミュニティ財団のための資金調達を自動化する「FundMiner」が170万ドル調達

大学やコミュニティ財団のための資金調達を自動化するプラットフォーム「FundMiner」は、約170万ドルの資金調達を発表。Sonoran Founders Fundをリードとし、TechstarsやCascade Seed Fundも参加した。— 参考記事