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GB Tech Trend #084: クリエイティブで存在感増す生成系AI——元Adobe CTOが挑む「Typeface」
これまでブランド企業が依存してきた広告代理店事業のリプレイスにも参入してくると予想されます。
執筆: Universe編集部
今週の注目テックトレンド
GB Tech Trendでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。
元Adobe CTOであるAbhay Parasnis氏が立ち上げた生成系AIスタートアップ「Typeface」が6,500万ドルの資金調達を実施しました。同社はマーケティングコピーや画像を起案するためのAI搭載ダッシュボードを開発しています。特徴は利用企業のブランドトーンを踏襲した形でアウトプットする点にあります。
Typefaceで「〇〇に関するブログ記事を書いてください」というコマンドを入力すると、プラットフォームがそれを実行し、画像付きの数段落の原稿を作成。画像やコピーのトーンは、特定の層をターゲットにしたり、ブランドのスタイルガイドラインに沿うようにカスタマイズすることができます。
従来、生成系AI(Generative AI)はファクトチェックがなされていない内容や、著作権に違反する単なるコピー画像を出力する場合がありました。Typefaceはこうしたブランド企業が参入しにくい点を解決しつつ、スケール感を持ってコンテンツ作成、クリエイティブ作業の自動化ができるAIサービスを目指しています。
さて、Typefaceの登場により、いくつかの領域でAIによるリプレイスが加速するように思われます。まず編集プロダクションやPR・メディア部門が担う簡単な記事作成の自動化が急速に進む可能性です。一方で取材記事のようなAIには知り得ない一次情報や、未来予測・考察を交えたコンテンツ作成に関しては、未だ人力に頼らざるを得ないため、その役割は変わらないでしょう。
また、コカコーラがOpenAIと提携を結んだことからも、Typefaceはこれまでブランド企業が依存してきた広告代理店事業のリプレイスにも参入してくると予想されます。クリエイティブ企業の多くが、数カ月・数年以内にAIソフトウェアの脅威を実感することでしょう。
最もリプレイスが加速する領域は、企業秘書サービスだと思われます。Yコンビネーター出身のパーソナル秘書サービス「Magic」は、AIを活用したサービスへと路線を変更しています。当初は2C向けになんでも雑務をこなす(忘れ物を家に取りに帰るなどの細かいタスク含め)サービスとして脚光を浴びましたが、その後は2B向けサービスへ転換。今ではAIをフル活用したサービスメッセージを押し出すことで提供価値を保っているように見えていますが、業界全体が大きくAI自動化へ傾いた時、どうなるかはわかりません。CEO向けの秘書サービスで600万ドルの調達を実施済みの「Double」も、ビジネスモデルがこの後持つかは不透明です。
昨今の生成系AIの動向がクリエイティブを飲み込むようになり、かつその信頼性までも担保したとなると、多くのサービスが倒れることになるでしょう。しかしこれは進化圧であり、Typefaceのような新たな市場機会を掴むサービスが登場するのも必然です。日本は大手広告代理店が市場で存在感を持っていることもあり、この市場構造が大きく変わる時、スタートアップの参入商機が大きく開かれると予想されます。
2月21日〜3月6日の主要ニュース
Inflection AIが6億7,500万ドルの資金調達に動く
DeepMindの共同創業者Mustafa Suleyman氏と、LinkedInの創業者Reid Hoffman氏が設立したAIスタートアップ「Inflection AI」は、6億7,500万ドルの資金調達に動いていると報じられた。同社は昨年、2億2500万ドルを調達している。— 参考記事
顧客管理プラットフォームAttioが、Redpoint Venturesをリードに2,350万ドルの資金調達を実施
次世代型CRMプラットフォームを開発する「Attio」は、Redpoint Venturesがリードする2,350万ドルのシリーズAラウンドを公表。Balderton CapitalとPointも出資している。同社は合計3,120万ドルを調達している。— 参考記事
子供たちにデジタル学習の安全な導入を提供するEdurino、1,110万ドル調達
教育関係者や作業療法士と協力し、ゲーミフィケーションレッスンを通じて子どもたち(4歳から8歳以上)にデジタル学習の安全な導入を提供する「Edurino」は、DN Capitalをリードに1,110万ドルのシリーズAラウンドを公表。FJ LabsとTengelmann Ventures、さらにこれまでの投資家btov Partners、Jens BegemannとEmerge Educationも出資している。同社は合計1,540万ドルを調達している。— 参考記事
3Dアセットプラットフォーム「Hexa」、2,050万ドル調達
テルアビブに本社を置く3D資産可視化・管理プラットフォーム「Hexa」は、Point72 Ventures、Samurai Incubate、Sarona Partners、HTCからシリーズAラウンドとして2,050万ドルを調達した。— 参考記事
金融・企業のESG目標達成を支援する「Sesamm」が3,700万ドル調達
自然言語処理を用いて金融会社や企業がESG目標を遵守することを支援するパリのスタートアップ「Sesamm」は、Opera Tech VenturesとElaiaが共同リードし、Unigestion、Carlyle、Elevator Ventures、AFG Partners、CEGEE Capital、New Alpha Asset Managementが追加出資したラウンドで3,700万ドルを調達した。同社は合計で5540万ドルを調達している。— 参考記事
オンラインスキンケア相談サービス「Skin + Me」、1,330万ドル調達のシリーズBラウンド
オンラインスキンケア相談サービスを提供する「Skin + Me」は、1,330万ドルのシリーズBラウンドを実施した。Octopus Venturesがリードを務めた。同社は合計2230万ドルを調達している。— 参考記事
NFTの送信・換金に電話番号を利用する「Redeem」、250万ドルのプレシードラウンド実施
電話番号を使ってNFTを送信・換金できるWeb3技術を提供する「Redeem」が250万ドルのプレシードラウンドを実施した。Kinetic Capitalがリードを務め、Monochrome Capital、VC3 DAO、The Fund、Flyover Capital、CMT Digital、KCRise Fund、KESTREL 0x1も参加した。— 参考記事