【海外VCの視点】世界のメガテックも出資する、アフリカの一流VCに聞いた「日本の活路」
なぜメガテック起業家はアフリカのVC「Norrsken22」に出資するのか? パートナーのNatalie Kolbeさんに、その狙いと日本企業が参考に出来ることを伺いました。

執筆:反田 広人、編集:Universe編集部
グローバル・ブレイン(GB)
先日、アフリカでスタートアップ投資を行うVC「Norrsken22」
多くのメガテック起業家が出資する、期待のVC
Norrsken22は2022年に設立されたVCです。主に、FinTech、EdTech、MedTech、Market Enablementなどの領域を中心に投資を行っています。
Norrsken22の大きな特徴は、アフリカ最大のFinTech企業であるFlutterwaveやSkype、「Minecraft」
またアフリカの起業家を数十年にわたって支援してきたパートナーが参画しており、業界内でも信頼を集めています。今回来日したNatalieさんも、新興市場に注力する英国大手PEファンドの1つであるActisに19年勤務し、グローバル責任者を勤めていた経験豊富な人物です。
GBのオフィスを訪れたNatalieさんは、はじめにGBの代表取締役である百合本との面会を実施。お互いの特徴や強みについて説明し合ったのち、質疑応答を行いました。
彼女からは「日本企業はアフリカのベンチャーファンドへの出資に関心を持っているのか?」
百合本は「中国やインドの次に成長が見込まれる市場はアフリカ。Norrsken22をはじめとする現地VCとともに長期にわたって投資をしていきたい」
Norrsken22から日本企業が学べること
その後「アフリカ進出を考える日本企業が考えておきたいこと」
──Norrsken22にはメガテック起業家が多く出資をしています。どのような狙いを持っているのでしょうか?
Natalie:彼らが出資する理由は大きくわけて2つあります。
1つは、アフリカには魅力的な投資機会があるためです。アフリカは若者が多く、デジタルネットワークへのつながりやすさを実現するインフラやスマートフォンの急速な普及もあって、新しいテックビジネスが勃興し成功をおさめています。革新的なテクノロジーで解決するべき問題があるからこそ大きなチャンスがあります。
私たちはそれを踏まえて、先進国では当たり前のように利用されている商品やサービスへのアクセスを提供するテックビジネスに投資しています。たとえば、クレジット、医療、質の高い教育、電気などへのアクセスなどです。これらは、アフリカではテクノロジーの力を使って効率的に提供しないと一般的な消費者でも手の届く価格で提供できません。コストを下げ、あらゆるものへのアクセスを可能にするテクノロジー・ドリブンのソリューションは今後も需要が増すと考えられます。
2つめは、グローバルに事業を拡大しているユニコーン投資家の多くはアフリカが巨大な消費市場であるとわかっているからです。
彼らは私たちのファンドを通じて、アフリカにどのような市場、課題、機会があるのかを知りたがっています。大金を投入してアフリカで事業を展開する前に、私たちのファンドをアフリカを学ぶための“窓口”として利用しているわけです。今後日本企業がアフリカ市場にアプローチする際にも、このように動くことができるのではないかと思います。
──Norrsken22はFinTech、EdTech、MedTech、Market Enablementに注力するVCですが、なぜこの4領域に注目しているのか詳しく教えてください。
Natalie:4つの中でも、FinTechとMarket Enablementはアフリカで最も機会がある領域です。
たとえば、アフリカの小売取引の大部分はいまだに現金で行われていますが、今後はほとんどデジタル決済に移行することは明らかでしょう。またアフリカは54カ国から成る大陸で、それぞれに通貨と支払方法が存在します。分断されている決済市場をつなぎ、プロセスを効率化するだけでも大きな機会があります。
アフリカのクレジット普及率は世界でも最低です。しかし、現金からデジタル決済への移行が進んで、アフリカの人々に与信を与えられればクレジット機会の創出が可能になるため、彼らのビジネスは一層成長できるようになります。
もう1つ大きな機会があるのが、アフリカの分断されたサプライチェーンです。アフリカの小売りの大部分はインフォーマルマーケットや小さな個人商店で取引されています。アフリカには、先進国にあるような大きなショッピングモールはありません。そのため、サプライチェーン上にはさまざまな非効率性があります。マーケットプレイス、プラットフォーム、ラストワンマイル物流、EコマースなどのMarket Enablementに関するテクノロジーがサプライチェーンを効率化してコストカットを実現し、物流における非効率性を解消すると考えています。
EdTechとMedTechはアフリカではアーリーな段階ですが、ここにもアーリーステージにおける機会が見え始めています。
アフリカの政府が提供する医療や教育は質も低く、十分ではありません。学校や病院を建て、教師や医師、看護師を配置しても、人口増加の速度に間に合っていないんですね。結果として、平均的なアフリカ人の収入では医療や教育を十分に享受できないという実態があります。
この問題を解決する唯一の方法はテクノロジーです。テクノロジーは医療、教育、インフラのコストを下げることで、これらの必要不可欠なサービスへのアクセスを容易にします。そのような分野に参入しているスタートアップには、大きな変化をもたらすチャンスが巡ってくると考えています。
反田:GBのアフリカ注力領域はFinTech、Healthcare、Commerce、Logistics、Climate Techです。Natalieさんの言うMedTechはHealthcareに含まれますし、Market EnablementはCommerceの一部ですので、Norrsken22の投資領域には共感します。
「EdTech×日本」
──日本とアフリカの連携に関する話が出ましたが、近年アフリカのスタートアップと協業したり、アフリカのVCに出資したりする日本企業が増えてきました。日本企業がアフリカにアプローチする際に意識しておきたいことは何でしょうか。
Natalie:近年、日本の企業や銀行、VCによるアフリカへの関心が高まっていると感じます。私が興味深いと感じるのは、日本企業は1つの企業との関係性を深める傾向にあることです。そうすることで、いわば特定の業界の、1社のアプローチだけを学んでいる状態です。もちろんその会社が成功すれば良いですが、失敗してしまったら、また別の企業と1から関係を構築する必要があります。
別の方法としてより幅広い企業から学ぶのであれば、私たちのようなあるいはGBのようなファンドに出資したり、CVCを設けたりすることをお勧めします。30の投資ポートフォリオを持つファンドであれば、30社すべてから学べますしリスクの分散もできるでしょう。
ただ、どちらかが正解か不正解かの話ではないとも思います。1つの企業と関係性を深めれば深いインサイトが得られ、(ファンドを通して)
反田:私も両方のやり方があっていいと思います。大事なのは、事業領域や目的に応じて適切なパートナーと連携することです。たとえば、販売網を広げたい消費財メーカーであれば、地場で代理店業を営む老舗企業と連携するのが望ましいでしょう。新たに同国で新規事業を創出したい事業会社であれば、ファンドへの投資を通じ、FinTechをはじめとした勃興している複数のスタートアップから事業パートナーに適した企業の目利きを行えます。
実際、特定のアフリカ企業と連携して事業拡大に成功した日本企業の例もあれば、アフリカファンドへの出資に乗り出す大企業も出てきています。Natalieさんが言ったようにアフリカの学び方に正解はなく、その企業の狙い次第だと言えるでしょう。
まとめ
アフリカで長年にわたりPE投資およびVC投資を経験してきたNatalieさんのインサイトからは、得るものが多くありました。またNorrsken22の初号ファンドに多くのメガテック起業家が出資していることをみても、アフリカ市場の可能性に対する確信の高さを感じます。
世界的に注目を集めるアフリカでの投資をより良いものにすべく、今後もGBはNorrsken22との情報交換を行い、連携を強化していきます。
これからもGB Universeでは、日本の方にとって参考になるアフリカスタートアップ情報を発信していく予定です。ぜひご覧いただければと思います。
(GB Universeの更新情報はグローバル・ブレイン公式Xにてお届けしています。フォローして次回記事をお待ちください)
反田 広人
Global Brain Corporation
Investment Group
Director
2021年にGBへ参画。アフリカ地域(主にエジプト、ケニア、ナイジェリア、南アフリカ)スタートアップのソーシング、投資実行、投資後支援を担当。