急成長中のスタートアップが一堂に。GBAF 2024「Startup Pitch Battle」レポート
グローバル・ブレインが約1年間で投資を決定したスタートアップから、注目の8社が登壇。AI、DX、教育、セキュリティなどさまざまな分野の起業家がピッチを行いました。

執筆:Universe編集部
2024年12月に開催したグローバル・ブレイン(GB)の年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2024(GBAF 2024)」では、GBが約1年間で投資を決定した、注目のスタートアップ企業8社による「Startup Pitch Battle 2024」を行いました。
審査を行ったのは、次の皆さまです。
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起業家・エンジェル投資家 有安 伸宏 様
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Noxx Inc. Co-founder and CEO 小林 清剛 様
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Sworkers 代表取締役 社長 坡山 里帆 様
本記事ではピッチの模様をレポートでお送りします。
【amptalk】日本の営業の質を向上させる

日本の営業従事者の割合は全労働人口の13%にも上っており、848万人もいるとされています。しかし、これまでの企業活動においてDXが進んできたのは経理や労務などのバックオフィス分野であり、営業活動を改善するセールステックは取り残されてきました。
そんな状況を打開するのがamptalkです。代表取締役社長の猪瀬氏は、大手化学メーカーで営業を経験し、米国企業でもセールスイネーブルメント実務を行うなど、一貫して営業分野でキャリアを積んできました。その経験がamptalkの3つのプロダクトに活かされています。
1つ目のプロダクトは「amptalk analysis」です。同サービスを使うと、オンライン会議での商談内容が自動で書き起こされ、セールスフォースなどの顧客管理システムに情報を連携することができます。
2つ目の「amptalk assist」は、TeamsやSlackなどのビジネスチャットツールから、 テキストや音声入力でセールスフォースの商談データを更新できるソリューションです。商談を終えたあとに、「XX社との商談フェーズを変更しておいて」と音声を吹き込むだけでセールスフォースを更新することができます。
こうしたプロダクト群が評価され、すでに大企業からメガベンチャーまで多くの企業に導入されています。さらに直近では、AIを活用した営業人材のトレーニングツール「amptalk coach」をリリース。商談データを基にした営業メンバーの改善支援や、効果的なパイプラインマネジメントまで実現可能になっています。
猪瀬氏は「営業はすべての企業の根幹となる重要な機能。amptalkのプロダクトを通じて、日本のセールスイネーブルメントの質を向上させていきたい」と展望を語りました。
【トリファ】海外旅行における通信の課題を解消

海外旅行時の通信手段として、多くの人が利用するレンタルWi-Fi。しかし、受け渡しの手間や申し込み手続きの複雑さや、パケット利用が限度を超えると高額な料金が発生することについて、ユーザーから不満が上がることも少なくありません。
こうした声に応えるべく、新たなプロダクトで挑戦しているのがeSIMサービスを展開するトラベルスタートアップ、トリファです。
同社のeSIMサービスは、物理的な受け渡しはもちろん不要。旅行先の現地レートによる安価な料金で提供しており、最短3分で利用可能です。使い方も簡単で、アプリを開いて行先とプランを選び、設定を行うだけですぐに海外で通信を行うことができます。
代表取締役の嘉名氏は、前年比5倍という同社の急激な成長率を示しながら、トリファの可能性を強調。さらに、日本で販売されるiPhoneがeSIM専用端末になる可能性や、総務省による「SIMロックへの規制」など、追い風となる外部環境の変化についても言及しました。
今後同社は、グローバル展開を視野に入れながら、eSIMサービスを起点として、移動、決済、旅行予約など、トラベルテック領域全体への事業拡大を目指すとしています。
嘉名氏は「海外に行くならパスポートと、トリファアプリだけという世界を目指したい」と展望を述べてピッチを締めくくりました。
【プラグテック】「駐車券のいらない駐車場」を実現

プラグテックは「駐車から、社会を動かす」というミッションを掲げるスタートアップです。
代表取締役CEOの舩本氏は、日本の駐車場市場について、車室数が500万以上に達し、市場規模は3兆5000億円規模にまで成長している大きなマーケットであると説明。その一方で、この巨大市場にはさまざまな課題が存在していると指摘しました。
利用者側の課題としては、駐車券が取り出しにくい、現金精算しかできないといった不便さがあります。また駐車場を運営する事業者側も、発券機や精算機のイニシャルコストが高い、人手に頼らないと機器のメンテナンスができない、などが大きな負担となっています。
こうした課題を解決するため、同社はソフトウェア型駐車場サービス「lott」を展開。独自開発したAIカメラとクラウドシステムを組み合わせることで、ナンバープレートによる車の入出庫管理を行い、「駐車券のいらない駐車場体験」を実現しました。
舩本氏は今後の展開として、ナンバープレート情報と決済情報を組み合わせた「顔パス駐車」というサービスも構想していることにも言及。駐車場のデジタル化を通じて、キャッシュレス化や省人化など、日本社会全体の課題解決にも貢献していく意向を示しました。
【HQ】本当に働く人のためになる福利厚生を作る

HQは、従来の福利厚生が抱える課題を解決するソリューションを展開するスタートアップです。
代表取締役の坂本氏は、既存の福利厚生には大きな“不”があると指摘。「映画やレジャーなど娯楽目的での利用に偏重しており、子育て支援やメンタルヘルスケアなど本質的な支援を求める従業員には十分に活用されていない」と現状の課題を語りました。
そこで同社が提供しているのが、マニュアル不要の直感的なUI/UXと、個人に最適化されたレコメンド機能を持つ福利厚生サービスです。
HQのサービスは企業の人事戦略に応じたカスタマイズや、利用実績に基づいたPDCAサイクルの実施も可能。また、トランザクション課金モデルが採用されているため、企業の導入コストを低く抑えていることも特徴です。こうした点が評価され、HQ導入企業では90%を超える高い利用率を誇っています。
坂本氏は今後の展開として、「これからも複数の新サービスをローンチし、All-in-oneの福利厚生ソリューションを構築していく」と説明。柔軟な働き方や、家庭・学びへのサポートなど、個々の従業員ニーズに応える新しい福利厚生の実現に向けて意欲を示しました。
【Lazuli】商品データから企業の革新を進める

企業におけるAIやデジタル活用が進んでいますが、その元となる入力データには課題が残されているのも実情です。入力データの整備は多大な人的コストが費やされる作業であり、10,000商品のデータを1人が専任で整備するとしても4年かかってしまうという試算もあるといいます。
この課題解決のため、Lazuliは企業の商品情報を効率的に整理・活用できるプラットフォームを提供しています。
同社の「Lazuli PDP(Product Data Platform)」は、顧客企業の商品情報のデータベースをAIで構築。商品情報をさまざまなフォーマットに変換できる機能も備えているため、ECやCRM、Web広告など幅広いアウトプットに対応することができます。
同サービスはすでに複数の大企業での導入実績があり、ある企業ではECサイトの売上が12倍に成長。商品情報登録にかかる時間も70%削減することに成功したとのことです。
代表取締役 CEO兼CTOの萩原氏は「顧客情報ではなく“商品情報”に特化したユニークなポジショニングで、PDPの市場を開拓している」と語り、今後も商品情報に関する課題解決を加速させていくと語りました。
【RUTILEA】日本から世界を目指すGPUクラウド

AmazonやGoogleなどが提供しているGPUクラウドサービス。日本国内でGPUクラウドサービスを展開している企業も存在していますが、そのシェアは10%程度に留まっています。
そこにイノベーションを起こそうとしているのが、RUTILEAです。同社は、経済産業省やエヌビディアなどとも連携し、独自のGPUクラウドサービス「bigbeargpu」を展開しています。
bigbeargpuでは、AIの開発者や利用者向けに最適化されたリソースを提供。その実力は広く証明されており、経産省のAI開発支援プログラムに採択された20社のうち5社が同サービスを採用しています。
同社の特徴は、他社のGPUクラウドサービスとリソースをシェアするという取り組みを行っている点です。北米や中東にある大手GPUクラウドサービス企業とのパートナーシップを通じて、適切なリソースを顧客に提供できる体制を整えています。
さらに、代表取締役の矢野氏は「福島県の被災地域にデータセンターを設置していることも特徴」だと説明。震災後に生まれた送配電網の余剰キャパシティを活用することで、投資対効果の高いデータセンター運営を実現しています。
【PAPAMO】発達障害の子どもをオンラインで支援

PAPAMOは、発達が気になる子どもや運動が苦手な子どもたちへの運動支援として、オンラインサービス「へやすぽアシスト」を提供するスタートアップです。
同社代表取締役の橋本氏は発達障害児の増加傾向に触れ、普通学級にも3〜4人程度の発達が気になる子どもたちがいる一方で、日本では126万人もの子どもたちが、発達が気になりながらも療育施設に通っていない状況について説明。その背景には、運動指導を行うコーチや施設の供給不足に加え、療育施設を利用していることを周囲に知られることへの心理的なハードルがあるといいます。
こうした課題に対応するために生み出されたのが「へやすぽアシスト」です。同サービスでは、自宅にいながらオンラインで専門家による運動指導を受けることができます。
PAPAMOでは、アカデミックにも有効性を認められた方法を用いて独自の指導コンテンツを開発。たった数回のレッスンで、縄跳びが飛べたり自転車に乗れたりするような成果を出しています。さらに、体幹トレーニングや姿勢改善を行うことで、鉛筆を使った練習をすることなく文字をきれいに書けるようになった子どももいるとのことです。
橋本氏は「コロナ禍やスマホ普及の影響で、現代の10歳児は30年前の5歳児程度の運動能力しかない」というデータを示しながら、発達支援の必要性を強調。今後は、事業で蓄積した運動指導のデータをもとにしたカリキュラムやツールを、他の療育施設・運動教室に提供していくことで「運動のスタンダードを作り、世界中の発達のインフラとなりたい」と語りました。
【Chillstack】企業や国を守るセキュリティプラットフォーム

ChillStackは、企業や組織のDXをより安全に実現するセキュリティプラットフォームを展開しているスタートアップです。
代表取締役CEOの伊東氏は、企業におけるAIやDXの推進が進む一方で、サイバー攻撃などのセキュリティリスクも急増していると指摘。民間企業だけでなく国防分野でも、こうしたリスク対策の重要性が高まっていると説明しました。
そうした課題に対し、同社は2つのプロダクトを提供しています。1つは、バックオフィス向けの不正検知ソリューション「Stena Expense」で、企業のバックオフィスが保有する経費精算、車の利用履歴、勤怠などのデータから不正や異常を洗い出し、なぜそれが不正なのかまで可視化できるサービスです。導入企業の中には検査業務が97%削減できた事例もあり、人による確認よりも網羅的な検査が可能といいます。
もう1つが「Stena Firewall for LLM」という、LLMの入出力を監視・フィルタリングするプロダクトです。顧客側は自社のLLMに3行のコードを記載するだけで、最新の攻撃を含む20種類以上の攻撃を防ぐことができます。
こうしたサービスは海外ではいくつか展開されているものの英語メインであり、日本語に対応しているものはほとんどない中、Chillstackでは日本語に完全対応したプロダクトを展開。また、顧客の使い方に合わせて検知モデルをカスタマイズできるのも特徴です。両プロダクト合わせてすでに50社以上の大企業が導入し、官公庁との連携も進行中とのこと。
最後に伊東氏は、AI×セキュリティの分野で研究を続けてきた自身の経歴や自社メンバーのバックグラウンドを紹介。自社について「国際的な学会で論文を書いているメンバーが集まった、世界トップレベルの技術者集団」と表現し、その技術力をアピールしました。
HQ、Lazuli、RUTILEAの3社が受賞
8社によるピッチ終了後、オーディエンスおよび審査員による審査を実施。その結果、オーディエンスの投票によって決まるAUDIENCE AWARDにHQ、審査員が選ぶPITCH PANEL AWARDにLazuli、GBAF AWARDにRUTILEAが選ばれました。
AIやDXなどにとどまらず、教育や福利厚生など幅広い領域のスタートアップが登壇したGBAF 2024。来場していた大企業の方々はその発表を熱心に聞き入っていらっしゃいました。本ピッチがスタートアップと大企業の共創を生む、飛躍の機会となっていれば幸いです。