持続可能な社会を作るスタートアップたち(4)ダイバーシティに対する国内の取り組み事例
強い組織作りにESG経営が必要であるということは疑いのない事実になりつつあります。

執筆: Universe編集部
スタートアップがESGに取り組むべきかーー。この問いに対するヒントのひとつは「組織作り」
国内スタートアップ・エコシステムでESGを重視したファンド「MPower Partners Fund」
同ファンドはスタートアップがESGに取り組むべき理由をプレイブックとしてわかりやすく言語化しているのですが、その中でも明確に「スタートアップがESG実践で得られる8つの価値」
経済産業省も多様な人材を活かし価値創造につなげる経営を「ダイバーシティ経営」
このように、強い組織作りにESG経営が必要であるということは疑いのない事実になりつつあります。しかしその一方で多様な価値観を持つ人々に参加してもらい、共に持続可能な社会や経済活動を営むためにも、その枠組みと評価の仕組みは重要です。そこで本稿ではダイバーシティやインクルージョンを中心に、スタートアップが組織のためにどのような形でESGを活用できるか、その方法と実際を整理してみたいと思います。
ESGの「S(ソーシャル)」とは何か
メルカリは9月、多様な働き方を社員が選択できる制度「YOUR CHOICE」
公開された社員アンケートの結果によると、9割以上がリモート勤務を選択して半数近くの社員が住環境を変えたり、7割以上の方が中抜けを利用して保育園などの送迎に使ったりするなど、ワークとライフのバランスをそれぞれの裁量で保てており、満足度の高い様子が伺えます。
メルカリの組織に対する取り組みは介護休業時の給料を100%保証した人事制度「merci box」
そしてこの採用ページにあって一際目立つのが「ダイバーシティ&インクルージョン」
そもそもESGの「S(ソーシャル)
このESGのS(ソーシャル)
多様な働き方を言語化する「10X」
2017年創業、80名ほどのメンバーが全国で働くスタートアップ、それが10X(テン・エックス)
成長株の同社にあって、その組織を支えているのが多様な働き方に対する取り組みです。彼らもまた、働き方に関するガイドラインとして昨年の6月に人事制度「10X Benefits」
そして積極的に働く環境を言語化している10Xだからこそ、やはりダイバーシティやインクルージョンに対する取り組みも明確にしていました。それが「10X DIVERSITY & INCLUSION POLICY」
ダイバーシティへの取り組みで得たもの
同社がダイバーシティや働き方への取り組みを考え始めたのは2021年初頭の頃。東京オリンピックを発端としたジェンダー論争が巻き起こったことで、10Xの代表取締役、矢本真丈さんから「自社としてダイバーシティやインクルージョンをどう位置づければよいのだろうか」
元々、矢本さんたち10Xは献立を作るアプリ「タベリー」
その一方、何から手をつけて良いか分からなかった中、中澤さんが参加したことでこの話は前に進むことになります。「まだ組織が小さい内から考えておくことが重要で、数字の目標などは一旦置いておいて、まずはダイバーシティをどう考えるかちゃんとみんなで共通認識を持つべきではと提案したんです。そしたらそれに同意なので考えて欲しい、と」
中澤さんはそこからリサーチを始め、経済産業省などのガイドラインを参考にしつつ、自社のミッションや事業との関連性を重要視したポリシーを策定し、識者へのヒアリングなどを経て現在の内容を作成したそうです。
ではその効果はどのようなものだったのでしょうか。
「社内では、発表前後でめちゃくちゃ何かが変わったかというとそうじゃないんですよね。これができる前からみんなダイバーシティへの意識は結構高かったかなと思っています。もちろん、多様性を毀損しようとするような人はいなかったし、むしろ男性でも育休をいっぱい取っていたので、プライベートも大事にできる働きやすい環境だったと思っています。
ただ、それまでの課題はこういったことが全然外に伝わってないっていうのがあって。改めて文章化して外に発信することで、自分たちとしては昔から思っていたことだったとしても、外の人から見た時に『そんなこと考えてるんだ』
結果はゆるやかな形で中澤さんたちの前にあらわれます。
例えば採用面接や入社後の理由に、一番ではないにせよ、安心材料のひとつとしてこういった働き方やダイバーシティ、インクルージョンを理由に挙げてくれる人が増えたそうです。
一方、課題もあります。
特に分かりやすい「女性比率」
立ち上げ当時、多様性のある人々に対するポリシーを策定したとしても、具体的な採用に対してどのように数値化するかという議論は困難を伴ったそうで、結果、アクション不足につながり、目に見える女性比率の変化とまではいきませんでした。
そこで中澤さんたちチームは2年後に女性比率30%という目標を新たに立てるそうで、これが具体的にどのような形で表現されていくのか、そのあたりも今後の注目点になりそうです。