DNA/RNA編集技術で社会課題に向き合う、エディットフォースに投資する理由
世界に類のない独自の技術で新しい治療薬開発に取り組むエディットフォース。彼らに注目する理由をお伝えします。

執筆: Universe編集部、共同執筆:西山 友加里
5月26日、グローバル・ブレインは新たな投資先として、世界にも類のない独自のDNA/RNA編集技術で新しい治療薬開発に取り組むエディットフォースへ出資を公表しました。グローバル・ブレイン7号投資事業有限責任組合及びKDDI Open Innovation Fund3号による出資で、同社はPPR(pentatricopeptide repeat)
本稿では正式に公開されたサービスの概要に触れつつ、私たちが彼らに注目する理由についてお伝えしたいと思います。
なぜDNA/RNA編集技術が重要なのか
現代バイオテクノロジーは幅広い分野における活用が期待されており、経済産業省における検討委員会(※バイオ小委員会)
https://www.meti.go.jp/press/2020/02/20210202001/20210202001.html
特に創薬における役割については、昨今のコロナ禍で期待されるワクチンの存在があるのではないでしょうか?通常であれば数年・10年という単位で開発期間が必要だったワクチンの開発を大幅に短縮したのも、こういったバイオテクノロジーの研究成果があったからです。エディットフォースもこの大きなバイオエコノミーの一旦を担う、大きな可能性を持ったスタートアップになります。エディットフォースの取り組むゲノム編集技術は、世界中の研究室・企業におけるバイオテクノロジー研究の加速に大きく貢献してきました。例えば、創薬研究に用いられるヒト疾患モデルマウス(遺伝子を改変してヒト疾患を再現した実験用マウス)
ゲノム編集市場は、2020年の51憶ドルからCAGR17%で成長し、2025年には112億ドルに達すると想定されている成長市場です。(出典: https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/genome-editing-engineering-market-231037000.html )
エディットフォースの技術はこのDNA編集のみならずRNA編集も可能にした点が強みです。DNAの遺伝情報がコピーされたRNAを対象とすることで、例えば意図しない編集があっても遺伝情報の元となるDNAには影響が及ばないため、安全性の観点で有利になります。結果、この技術が複数の製薬企業やバイオベンチャーから注目を集めることになったのです。
社会実装に向けた課題——権利問題
エディットフォースは九州大学・中村崇裕教授の研究成果をもとに設立された、九州大学発のベンチャーです。社会実装に向けて力強く進んでおり、すでに複数のパイプライン(新薬候補の開発プロジェクト)
ZFN、TALENに続く第三世代のゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)
一方、CRISPR-Cas9は、上記で記載した安全性に関する懸念以外にも、医療分野での活用を推進していく上でのハードルとして特許問題が存在しています。カリフォルニア大学らとブロード研究所の間で今も基本特許を巡る争いに決着がついていないことに加えて、医療分野では治療対象領域を特定したかたちでの独占実施権の獲得競争が激しく、実施料が高額化するなど問題が顕在化している状況です。
例えば Vertex Pharmaceuticals社は、鎌状赤血球症(SCD)
その点、エディットフォースはCRISPR-Cas9をはじめとする他のゲノム編集技術とは異なるメカニズムである九州大学発の独自の技術を有しており、特許の観点でも、製薬企業・バイオベンチャーが手を組みやすい状態となっています。
強いチーム
また、バイオベンチャーに限らず、強固な経営チームをつくれるかはベンチャーにおける最重要ポイントの一つです。エディットフォースの経営陣は上場経験者を含む経験豊富なメンバーで構成されており、ビジネスとしてIPOを目指す体制も整えています。
代表取締役社長の小野高氏と取締役CFOの大年寿子氏は共にソレイジア・ファーマでIPOを経験した人物で、小野氏は同じく創薬ベンチャーであるそーせいでもIPOを経験しています。取締役CTOの八木祐介氏は設立前から九州大学で基盤技術確立の中心的役割を担っており、創業者である九州大学の中村崇裕教授は科学顧問としてサイエンスの面から同社を支えています。また、取締役CSOの中西理氏は武田薬品工業や医薬基盤研究所、日本医療研究開発機構(AMED)
現在エディットフォースはこのようなチームで、医薬品開発分野へ注力した活動を続けています。同時にこの技術は、化学や農業などその他分野での応用も可能である魅力的な基盤技術でもあります。疾患だけではなく、食や環境、エネルギーなど幅広い分野における問題の解決手段を生み出す企業として羽ばたくことを期待しています。