期待のシードスタートアップが登壇。GBAF 2024「XLIMIT Showcase」レポート

グローバル・ブレインのアクセラレータプログラム「XLIMIT」。3rd Batchに採択された5社(any style、LOOV、NexaScience、アウトラウド、Seven Point One)のスタートアップがピッチを行いました。

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執筆: Universe編集部

2024年12月に開催したグローバル・ブレイン(GB)の年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2024(GBAF 2024)」では、GBによるアクセラレータープログラム「XLIMIT(クロスリミット)」3rd Batchに採択された5社によるピッチイベント「XLIMIT Showcase」が行われました。今回はその模様をお届けします。

(※所属、役職名、各社の実績数値などはGBAF開催時のものです)

【any style】VTuberの3つのニーズに応える

株式会社any style 代表取締役 萩原 湧人氏

VTuber市場は、直近2年で1,000億円規模に成長しており、数年後には全世界のアニメ産業と同等の規模になると見られている魅力的なマーケットです。現在、国内には約2万人のVTuberが存在しており、そのうちの9割が個人で活動しています。

この個人VTuberに着目したビジネスを展開しているのがany styleです。同社は、個人VTuberが抱える「収益性を向上させたい」「活動の支援を受けたい」「企業案件を獲得したい」というニーズに応えるソリューションを2つ提供しています。

1つは、VTuberとファンによる1対1でのコミュニケーションが可能なメッセージアプリ「my dear.」です。VTuberからテキストやボイスのメッセージを送れるため、ファンクラブに近い顧客体験を実現できます。

もう1つは、VTuberに企業のPR案件を紹介していくプラットフォーム「my dear.nest」です。同サービスは約190名のVTuberと提携しており、総リーチ数260万人を超える大きな媒体になってきているとのこと。すでに企業案件の実績も出ており、JR東日本や札幌市と連携してPR案件を創出したり、コナミや東京メトロとeスポーツイベントを開催したりするなど、多様な取り組みが広がっています。

今後の展開について代表取締役の萩原氏は、多様なグッズ展開やマルチチャンネルネットワーク(複数のYouTubeチャンネルを束ねてコンテンツ制作や著作権管理などをサポートをすること)の取り組みを通じ、VTuber1人あたりの単価向上を目指すとコメント。さらに北米、ヨーロッパ、中国への展開も視野に入れているとし、世界規模でのIPネットワーク構築を目指す意向を示しました。

【LOOV】ハイクオリティな商談をデジタル上で実現

株式会社LOOV 代表取締役CEO 内田 雅人氏

LOOVは、営業やカスタマーサポートなど、説明に関わる業務のデジタルシフトを推進するスタートアップです。

現在、日本で営業職に携わる人口は約800万人ほどとされています。しかし、今後5年間で約80万人もの人手が不足すると見込まれており、営業の業務効率化はあらゆる産業における大きな課題です。

その解決策として同社は、SaaSサービス「LOOV」を提供しています。LOOVは、高い成果を出す営業職社員のプレゼンを録画し、それをインタラクティブな動画コンテンツに変換できるソリューションです。

LOOVの動画内では視聴者に向けて適宜質問が投げかけられ、その回答に応じて提案内容を自動的に最適化することが可能。この機能により、ハイパフォーマーな営業担当と同じような商談活動をデジタル上で実現することができます。

LOOVはサービス開始からわずか1~2ヶ月で100社を超える企業が導入を決定。チャーンレートも0.9%と低水準を維持しており、顧客からの高い支持を集めています。

代表取締役CEOの内田氏は将来的なビジョンとして、営業領域のみならずカスタマーサクセス、顧客サポート、採用、自治体窓口など、説明業務全般のデジタル化を推進していくと主張。LOOVに蓄積したデータなども利活用しながら、幅広い価値提供を行っていく考えを示しました。

【NexaScience】“論文・特許多すぎ問題”をAIで解決

株式会社NexaScience 代表取締役 牛久 祥孝氏

NexaScienceは専門知識の民主化を目指すスタートアップです。代表取締役の牛久氏は、画像認識AIの研究に長年携わり、2012年の国際コンペティションでは世界2位を獲得した経歴を持っています。

牛久氏は、世界中で論文や特許が急増していることを指摘し、研究者や知財担当者ですら最新情報を追い切れない現状があると説明。企業などが専門性の高い情報を効果的に活用できない状況も発生しているとしました。

この課題に対し、同社はAI駆動型プラットフォーム「InnoSight」を提供しています。InnoSightは、研究者・技術者向けの「InnoSight Papers」、知財担当者向けの「InnoSight Patents」、企業間のコラボレーションを促す「InnoSight Collab」の3つのプロダクトで構成。論文や特許の執筆を支援したり、専門知識を解説したり、ユーザー自身も気付いていない技術を提案したりするソリューションとなっています。

InnoSightには独自の「テイミングAI」技術が用いられており、ユーザーの専門性に応じた最適な情報を提供することが可能。この点で既存のAIサービスと大きく差別化することができています。

なお同社は「2050年までに科学者とAIサイエンティストがノーベル賞級の研究成果を創出する」ことを目指す国の研究開発プロジェクトのスピンアウト企業であり、高度な技術力を有しているのが特徴です。牛久氏はこうしたアドバンテージを活かし、「科学技術の研究プロセスそのものを変革していきたい」と意気込みを語りました。

【アウトラウド】BtoB商談の準備を行うAIエージェント

株式会社アウトラウド 共同創業者 代表取締役CEO 朝澤 隼氏

2040年には1,100万人が不足すると見られている日本の労働人口。アウトラウドは、生成AIによるBtoB営業の効率化という側面から、この社会課題の解決に挑むスタートアップです。

代表取締役CEOの朝澤氏は、法人営業担当者の業務時間の64%が、商談以外の準備作業に費やされていると指摘。特にエンタープライズセールスと呼ばれる、既存顧客との接点から商機を広げていく営業スタイルにおいては、従来のSaaSツールでは十分なソリューションが提供されていないと述べました。

こうした課題に対して同社が提供するのが、セールスAIエージェント「Pocta」です。Poctaでは、顧客企業の財務情報や採用動向から潜在的なニーズを分析し、それに基づく提案シナリオを自動生成することが可能。導入企業の1つであるコニカミノルタでは、トップセールス並みの品質の提案シナリオの作成から顧客連絡までを5分で実行できるようになるなど、成果が出ているといいます。

アウトラウドは今後の展望として、BtoBセールステック市場のみならず、営業部門の人件費・外注費を含む8.4兆円規模のマーケットを目指していくとのこと。朝澤氏は、東大松尾研発のスタートアップ出身者やIPO経験者など、豊富な実績を持つメンバーとともに「AIワーカーと働く社会の実現を目指したい」と語りました。

【Seven Point One】認知症を「音声」で早期発見

Seven Point One Inc. 代表取締役 イ ヒョンジュン氏

韓国に本社を置くSeven Point Oneは、認知症を早期発見・改善するスタートアップです。

代表取締役のイ氏は、世界の認知症患者の80%が未診断であるという現状を紹介。また、認知症の発見が遅れることで患者家族が受ける経済的負担は、年間約23,000ドルにも及ぶと述べました。

こうした課題に対し、同社は音声分析によって認知症を早期発見するソリューション「AlzWIN」を提供しています。AlzWINでは患者の60秒程度の音声から意味的特性や言語流暢性を分析し、認知症を早期段階で検出することができます。診断精度も高く、94%という高確率で適切に検出することが可能。また患者の音声データを使うだけで検査ができるため、VRやARなどを使う早期発見サービスよりも体への負担が少ないことも強みです。

すでに国内では9,000人以上の認知症患者の発見に貢献しています。 また、米国ではFDA(Food and Drug administration:米国食品医薬品局)に製品登録を完了し、日本語検査でも93%の感度を実現するなど、グローバルを意識した取り組みを展開。 また、米国最大の認知症研究財団や協会のパートナーとなり、欧州の大手ヘルスケア企業や大手病院とも提携するなど、グローバルでの評価も高まっています。

「家族にアルツハイマー患者がいたことから、認知症の早期発見の重要性を痛感し、起業に至った」というイ氏。今後は診断領域だけでなく、病状のモニタリングや管理までを包含したプラットフォームへと事業を発展させていきたいと展望を語りました。