注目は「農業とヘルスケア」。スタートアップ大国・ナイジェリアに眠る協業チャンス

ナイジェリア国立デジタル・イノベーション機関「ONDI」のVictoria Fabunmiさんと、ONDIに派遣されているJICAの不破 直伸さんに、ナイジェリアのスタートアップ市場が持つポテンシャルを伺いました。

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執筆:反田 広人、編集:Universe編集部

グローバル・ブレイン(GB)にて主にアフリカ地域のスタートアップへの投資を担当している反田です。

先日、ナイジェリア国立デジタル・イノベーション機関(Office for Nigerian Digital Innovation:ONDI)の方々にGBのオフィスにご来社いただき、GB代表の百合本と意見交換を実施しました。本記事では、その際に語られたナイジェリアのスタートアップ環境の現状についてご紹介します。

(※所属、役職名などは取材時のものです)

ナイジェリア政府が語る、スタートアップのいま

ONDIは、ナイジェリア国内のデジタルイノベーションを推進し、スタートアップエコシステムの成長を支援するために設立された政府機関です。ナイジェリアのIT政策の策定・実施を行う「国立情報技術開発庁」の下部組織として設けられています。

今回の訪問ではまずはじめに、ONDIのナショナル・コーディネーターであるVictoria FabunmiさんからONDIとナイジェリアのスタートアップ環境についてご紹介いただきました。

Victoria Fabunmi:複数の民間金融機関で15年以上の実績を積んだ投資の専門家。投資先を支援することで大きなインパクトを残してきた。2024年5月にナイジェリア国立デジタル・イノベーション機関(ONDI)に移籍。スタートアップ・エコシステムの底上げに貢献している。

Victoriaさんは、ナイジェリアのデジタル経済は毎年2倍に拡大しており、1.5億人がインターネットにアクセスできる環境が整っている点について説明。ナイジェリアからはアフリカ大陸内で最多となる5社のユニコーン企業が誕生しており、スタートアップ環境が成熟してきているようです。

また、ONDIが行っている活動として、300万人の若者へのテクノロジー研修や、起業家育成プログラム「iHATCH」などを挙げながら、イノベーションエコシステムの発展に向けたさまざまな支援についてもご説明いただきました。JICAやJETROと連携し、日本企業とのパートナーシップ構築支援も行っているそうです。

最後にVictoriaさんは「日本企業にはぜひナイジェリアのスタートアップエコシステムへ目を向けて欲しい」と、両国間のパートナーシップ強化を通じた相互の市場活性化の実現について熱意を持ってお話しいただきました。

また当日は、スタートアップエコシステム構築専門家として国際協力機構(JICA)よりONDIに派遣され、同国のエコシステム構築を支援している不破 直伸さんへのインタビューも実施しました。その際の様子もお伝えします。

ナイジェリアからユニコーンが生まれる理由

(※太字の質問はすべてUniverse編集部)

──ナイジェリアという国やナイジェリアスタートアップにどのようなポテンシャルがあるのか、改めて不破さんの視点から教えてください。

不破:私がナイジェリアに着目する最大の理由は、その市場規模にあります。アフリカは大陸全体で見ると人口は多いものの、国ごとに見たマーケットは小さいところが多いのが現状です。ただ、ナイジェリアは違います。アフリカで唯一2億人を超える人口を抱えており、マーケットは明らかに大きい。

多くのアフリカのスタートアップは、成長のために他国展開を余儀なくされますが、ナイジェリアの場合は国内だけでも十分な成長が見込めるわけです。これがナイジェリアからユニコーン企業が生まれやすい理由の1つにもなっています。

また、ナイジェリア国内の課題はサブサハラ地域全体に存在するので、ナイジェリアで成功したスタートアップは、他の地域でもビジネスを伸ばせる確率が高い。「ナイジェリアを制するスタートアップは、アフリカを制する」と言えます。

不破 直伸:国際協力機構(JICA)スタートアップエコシステム構築専門家。投資銀行、IT系スタートアップの役員を経て、ウガンダに移住し、JICA入構。エチオピア勤務ののち、ナイジェリアへ。現在はナイジェリア国立デジタル・イノベーション機関(ONDI)に派遣され、同国のスタートアップ・エコシステム構築を支援。

──中でも成長が見込まれるスタートアップの領域はありますか?

不破:よく言われることですがFinTechは引き続き注目分野です。加えて、日本企業との連携という視点で言うと、農業とヘルスケアの分野にも注目していただきたいと思っています。

ナイジェリアではFinTechが普及し、銀行口座を持たない人々も送金や支払いができるようになってきました。金融インフラの整備は、他の産業にも大きな影響を与えています。たとえば、従来は現金回収が必要だった農業やヘルスケアの分野でも、FinTechによって効率的に資金を回収できるようになりました。FinTechの発達によってあらゆる産業が恩恵を受け始めている状況です。

ナイジェリアでは農家や薬局・病院を束ねるスタートアップなども台頭してきました。これらのスタートアップは現地での販売網を持っているため、彼らと連携すれば日本の製品を流通させる新たな機会を得られるはずです。

産業やスタートアップエコシステムの成熟度が高まったいまは、日本企業が参入するには絶好のタイミングだと思います。

反田:前職でアフリカ駐在を経験した観点からお話すると、従来の日本企業にとってはアフリカの現地にいる最終顧客へのリーチが課題でした。いまは現地のスタートアップがそこをカバーしてくれているので、日本企業にとっては連携しやすい環境が整ってきましたよね。

有望スタートアップと連携するには

──日本企業がナイジェリアでビジネスをする際に気を付けるべきことや、連携のポイントがあれば教えてください。

不破:文化的な違いには注意が必要ですね。たとえば、時間に対する感覚が日本とは異なる場合もあります。もちろん全員ではありませんが、ナイジェリアでは11時集合と言われたら、12時までの間に到着すればOKという考えの人もいます。こうした相手とビジネスを進めることに、最初は困難を感じる日本人もいるかもしれません。

反田:一方で、ナイジェリアには他のアフリカ諸国に比べてアグレッシブな商売人気質な人が多く、事業を成功させて生活を変えたい意欲のある人も多いです。そういう意味で、ビジネスを推進しやすい面もありますね

不破:ナイジェリアのスタートアップとの連携を進めるためにも、日系企業のマネジメント層の方々にアフリカの現場に来ていただいて、収益性を見て感じ取ってもらうのが大切です。ただ残念なことに現在、ナイジェリアには日本人が日本人を呼び込むエコシステムがありません。これは大きな課題です。

──ナイジェリアのスタートアップとの協業や投資に踏み切るべき適切なタイミングはあるのでしょうか。

反田:ナイジェリアはたびたび為替の切り下げを行っているんですが、その影響を乗り越えたスタートアップが出てくるのが2025年8月のTICAD 9(アフリカ開発会議)のころではないかとみています。つまり、来年には厳しい環境を生き抜いてきた強いスタートアップが明確になるということです。

また、ナイジェリア政府は昨年、燃料補助金の撤廃という大きな決断をしました。これによりガソリン価格が大幅に高騰し、企業はオペレーションコストの上昇に直面しています。為替引き下げと燃料価格高騰のダブルパンチという環境でも立ち直る力と適応力を持ち、単に生き残るだけではなく成長を続けてきたスタートアップが明らかになるのは、まさにこれからのはずです。

不破:世界の動きと同様に、ナイジェリアでもスタートアップの二極化が進んでいます。成長力のあるスタートアップだけが生き残るので、今後は必然的に優良なスタートアップを選びやすいタイミングになると考えられます。

ただし、優良スタートアップが明確になってからでは、協業や投資で参入する余地がなくなってしまうとも思います。日本企業としては、いまのうちからリレーションを築いておくことが重要です。

──スタートアップの淘汰が始まると見られる来年までの間に、連携の準備をしておく必要があると。

不破:はい。日本企業における最大の課題は、アフリカに関する情報ギャップです。やはり物理的な距離の遠さもあって、正確でない情報が信じられてしまうケースも少なくありません。ナイジェリアについて正しく理解してもらう機会を増やす必要がある。

私たちJICAは「Project NINJA」という開発途上国におけるビジネス・イノベーション創出の取り組みを行っており、ナイジェリアでも日本企業との連携を促進しています。アフリカ進出している日本企業の事例を公開するセミナーなども積極的に開催していますので、ぜひ参考にしてもらいたいですね。

個人的には、いずれは「アフリカセミナー」ではなく「ナイジェリア」「ケニア」といった国単位でのセミナーや金融、農業、保健等のセクターを切り口とした、より解像度の高いセミナーを主流にしていきたいと思っています。日本ではまだ「アフリカ全体」に関心のある方が多いですが、よりアフリカの情報が浸透していけば各国ごとの事情を知りたいと思う方も増えてくるでしょう。日本企業の皆さんがアフリカの国ごとにビジネス戦略を考えるのがあたりまえになるような、そんな未来を目指したいですね。

まとめ

ONDIのVictoriaさん、およびJICAの不破さんのコメントからは、日々ナイジェリアの現地を見ているからこそ語れる深い洞察があり、多くの学びを得られました。ナイジェリアのスタートアップエコシステムを活性化させようと奮闘する彼らの情熱にも触れ、改めてアフリカ投資担当として意を新たにさせられた思いです。

今後もGBではアフリカでの投資をより良いものにすべく、ONDIならびにJICAとの情報交換を行い、連携を強化していきます。

GB Universeでは、これからも日本の方にとって参考になるアフリカスタートアップ情報を発信していく予定です。ぜひご覧いただければと思います。

※GB Universeの更新情報はグローバル・ブレイン公式SNSにてお届けしています。フォローして次回記事をお待ちください。

反田 広人

反田 広人

Global Brain Corporation

Investment Group

Director

2021年にGBへ参画。アフリカ地域(主にエジプト、ケニア、ナイジェリア、南アフリカ)スタートアップのソーシング、投資実行、投資後支援を担当。