10X「Stailer」が大幅刷新。ネットスーパーを超えた、新戦略の勝算
小売事業者向けにネットスーパー立ち上げプラットフォームを提供してきたスタートアップ、10X。2025年のブランドリニューアルの背景や今後の成長戦略などを深掘りします。

いま注目のスタートアップが提供するプロダクトを深掘りして紹介する「Next Wave」。
今回は、スーパーマーケットをはじめとする小売業界の構造的な課題に挑むスタートアップ、10X(テンエックス)を紹介します。
小売DXプラットフォームへの転換背景
2020年に、小売事業者向けのネットスーパー立ち上げプラットフォーム「Stailer(ステイラー)」をリリースした10X。
同社は、2025年5月にStailerを「ネットスーパープラットフォーム」から「小売DXプラットフォーム」へとブランドリニューアルし、事業領域を大幅に拡大しました。

新たな小売DXプラットフォームでは、ネットスーパーに限らず、小売現場のDX全般を支えるマルチプロダクトを展開予定です。第1弾として、天候や商品マスタ、売上などの情報からAIが商品需要を予測し、発注業務を効率化する「Stailer AI発注」も公開されました。
以前からスタートアップ業界で注目を集めていた10Xですが、このタイミングでブランドを転換した理由は大きく2つあると考えています。
1つは、小売業界の構造的課題に対応するため。
小売業界はかねてより厳しい社会課題に直面しています。人口減少や少子高齢化による慢性的な顧客数の減少、働き手不足などは大きな課題です。
また、近年は物価高騰による影響も。一般的にスーパーマーケット事業は収益率が低く、価格転嫁がしづらいビジネスモデルであるため、物価高騰は粗利を直に圧迫してしまいます。
こうした背景から、業界全体の労働生産性の向上やそれによる収益率の改善は待ったなしの状況なのですが、小売業界はアナログなオペレーションが多く、DXによる生産性向上が進みづらいのが実態です。非正規雇用者が多い業界であることから、時間をかけて店舗従業員にITノウハウを共有してもすぐに退職してしまうケースも多く、ITツール導入にはハードルがありました。
このような小売業界の収益拡大やDXの課題に対し、ネットスーパーのみならず全方位から挑むために、10Xでは事業領域拡大に踏み切ったのだと思われます。
また、同社がネットスーパー事業で実績を上げ、さらなる事業展開が可能な体制が整ったこともブランドリニューアルの背景の1つにあげられるでしょう。

10Xのネットスーパー事業は多くの成功事例を生み出しています。たとえば、デリシアでは2022年にStailerを導入してネットアプリをリニューアルし、その後黒字化を達成。ユニークユーザー数や売上も順調に増加しています。また、ライフでは100店舗以上にStailerが導入されるなど、着実に実績を積み上げてきました。
このようなネットスーパー事業での確実な成果があったことは、多領域へのプロダクト展開に踏み切る大きな追い風となったと思います。
実績につながった、競合にないアプローチ
10Xがネットスーパー事業で実績を上げられた最大の理由は、ネットスーパー市場の競合プレイヤーであるSIerとは異なるアプローチを取ったためです。
SIerに依頼すれば自社開発をすることができますが、多額の初期費用がかかるのが懸念点です。収益性の低いスーパーマーケット業界では、多額の費用をかけてSIerと連携できる企業は限定的でした。
一方、10Xのネットスーパープラットフォームのソリューションは、GMV(Gross Merchandise Value:流通取引総額)あたりの成果報酬制を採用しており、初期コストは相対的に非常に低く抑えられます。さらに、プラットフォーム型のサービスであるため、スーパー独自のポイント連携などカスタマイズも可能です。
また、10XはUIUXの質の高さも大きな強みで、エンドユーザーや事業者からも高い評価を得ています。DXが遅れがちでITツールも広く浸透しきっていないスーパーマーケット企業において、プロダクトの使いやすさはシンプルながらも大きな差別化要因となったと言えるでしょう。
マルチプロダクト展開の2つの勝ち筋
こういったアプローチによりネットスーパー事業で成果を上げてきた10X。小売業界のさらに広い領域にプロダクトを展開したことで、彼らが培ってきた2つの強みを活かした成長戦略が考えられます。
1つ目の強みは小売現場に対する深い業務理解です。
10Xはプロダクト開発において、特に現場業務の理解に注力してきました。たとえば、スーパーマーケットの現場に担当者が入り、現場の業務を1つ1つ分解。業務設計からオペレーションの落とし込みまで細かく行うなど、徹底した現場理解にリソースを割いてきました。この過程で培われた現場業務への高い解像度は、他のプロダクト開発においても強みとなると思います。
2つ目は戦略策定支援を通じた、スーパーマーケットの経営課題への理解です。
10Xはプロダクト提供だけでなく、スーパーマーケット事業者の経営戦略支援なども行ってきました。そのため、現場レベルだけでなく経営レベルの課題についても深い洞察を持っています。現場の効率化だけでなく、経営に直接インパクトを与えるようなプロダクトの開発につながる知見があるのは大きな武器の1つです。
実際、今後リリース予定のプロダクトの中には、プライシング戦略をサポートする「Stailer AIプライシング」や、小売現場のデータの集約・統合・活用を進める「Stailer MD」など、スーパーマーケット事業を経営視点で支援する製品が控えています。

まとめ
小売業界はこれまでDXが遅れがちな領域でした。しかし、人口減少や人手不足、利益率の低下といった構造的な課題に直面する中で、テクノロジーの活用は避けて通れない課題となっています。
こうした課題に対し、10Xはネットスーパープラットフォームとしての実績を基盤に、より広範な領域からDXを推し進めることに取り組み始めました。AIも活用したマルチプロダクトをラインナップし、小売業界の課題解決と価値創出を目指しています。
スーパーマーケットに関する現場業務の深い理解と経営視点の両方を兼ね備えた10Xが、小売業界のDXにどのようなインパクトをもたらすのか。これからの動向に注目です。
※記載の情報は記事掲載時のものです
(執筆:Universe編集部)