AIの爆発的普及はClimate Techをどう変えるか?エネルギー投資の新たな潮流

エネルギーは買うものから自社で確保すべき資産へ──Climate Tech投資に携わる日本特殊陶業とグローバル・ブレインが「TechGALA Japan 2026」にてパネルディスカッションを実施。AI需要で激変するClimate Techおよびエネルギー投資についての議論を抜粋してご紹介します。

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【Summary】

  • AIの爆発的普及によりエネルギーは「コスト」から「戦略資産」

  • 核融合や次世代原子力に見られる社会実装への兆し

  • 日本が持つ「現場の遂行力」がグローバル共創の武器に

気候変動への対策とエネルギー転換が喫緊の課題となる中、世界のClimate Tech投資は新たな局面を迎えています。特にAIの急速な普及に伴うデータセンターの電力需要増大は、エネルギーを「調達するコスト」から「確保すべき戦略資産」へと再定義しつつある状況です。

一方、日本国内では地理的制約や政府のGX推進を背景に、独自の技術開発と投資トレンドが形成。この潮流の中、日本特殊陶業株式会社とグローバル・ブレイン(GB)が共同で設立した「Niterra 水素の森ファンドでは、次世代エネルギー分野も含めた投資を推進しています。

2026年1月に開催された「TechGALA Japan 2026」では、日本特殊陶業サステナビリティ戦略室室長の久禮 圭祐氏とGBのGeneral Partnerである木塚 健太にて、「大企業とVCが挑む、次世代エネルギーのインキュベーション戦略」と題したパネルディスカッションを実施。本記事ではそこで話された、両社の取り組みやグローバルなエネルギー投資の現在地についてご紹介します。

TechGALA Japan 2026登壇時の1コマ
TechGALA Japan 2026登壇時の1コマ

電力危機予測を起点に変容する「投資論理」

かつてのClimate Techへの投資はESG投資の文脈、すなわち地球環境への貢献という側面が強調される傾向にありました。しかし、実際の投資に携わるGBの木塚は、いままさに起きているパラダイムシフトを指摘。

2021年ごろに盛り上がったClimate Techは一時的な停滞も懸念されましたが、AIの爆発的普及で状況は一変しました。膨大なデータを処理するデータセンターの消費電力は、2030年までに現在の2倍以上に膨らむと予測する報告書もIEA(国際エネルギー機関)から出ています。このエネルギー需要を支えるClimate Techに再び注目が集まっている状況です。

Google、Meta、OpenAIといったビッグテック企業は、AIの運用に不可欠なデータセンターの電力を確保するため、エネルギー供給網の構築を経営課題に据えています。

いまやエネルギーは「外部から買うもの」から「戦略的に自社で確保すべき資産」へと定義が書き換えられました。この投資論理の変化により、膨大な資金を必要とする原子力や核融合といった領域にも、実需に基づいた巨額の資本が流入し始めている状況です。

日本特殊陶業が描く「循環型エネルギー社会」

エネルギーの確保と並行して議論されるべきなのは、その「使い方」の高度化です。日本特殊陶業の久禮氏は、同社が描く次世代エネルギーの循環モデルを提示しました。

画像提供:日本特殊陶業
画像提供:日本特殊陶業

久禮氏が強調するのは、排出されるCO2を「ゴミ」ではなく「原料」として捉えた、以下のような視点です。

  • 工場から排出されるCO2を回収し、再生可能エネルギー由来の水素と合成してメタン(合成燃料)を生成する。
  • そのメタンを再び工場の燃料として利用し、クローズドな循環を完成させる。
  • 回収したCO2は、建材や食品、農業といった多岐にわたる産業の原料としても供給する。

このモデルの実現には、水電解技術、水素ストレージ、CO2回収、そして燃料電池による高効率な発電など、数多くの技術的ピースが必要です。久禮氏は「1社だけで完結できる世界ではないと断言し、企業の技術とスタートアップの機動力をかけ合わせる「共創」の不可欠性を訴えます。

また、日本特殊陶業ではファンドだけでなくSUISO no MORI hubという実証フィールドも用意しています。久禮氏はスタートアップと共創していくスキームを作りながら、この世界を盛り上げていきたいと意気込みを語りました。

製造業としての技術基盤とサステナビリティへの長期的視点を融合させ、エネルギー循環社会の実現に向けた具体的なアクションを起こしている点が、同社の特徴と言えます。

日本特殊陶業 久禮 圭祐氏
日本特殊陶業 久禮 圭祐氏

「サイエンス」から「エンジニアリング」へ——死の谷を越えるための突破口

エネルギー領域のスタートアップには、IT領域のスタートアップとは決定的に異なる投資の壁が存在します。それは技術が理論的に可能か(サイエンス)という段階から、社会実装可能か(エンジニアリング)という段階へ移行する際に現れる「死の谷」です。

木塚はこの壁を乗り越える兆しが、いくつかの領域で見え始めていると分析。たとえば核融合は長らくサイエンスの領域に留まっていましたが、研究の蓄積と社会的なエネルギー需要の高まりによってフェーズが変わっています。 いまや核融合や次世代原子力は、不確実な科学的発見を待つフェーズから、リソースを投入して量産化・安定化を目指すエンジニアリングの課題へと昇華されつつあります。そのため、ある程度技術が実証済みで、事業ロードマップが明確なスタートアップへの注目が高まっている状況です。

一方、大企業のCVCにおいても内部的な葛藤が課題となっています。久禮氏は、事業会社が持つ「短期的なリターンへの期待」と「中長期的な社会課題解決」の間のバランスの難しさを指摘。スタートアップと対等に共創するためには、企業側が「自前主義」を脱却し、意思決定のスピードを劇的に高めることが求められていると語りました。

日本の「現場力」「組織力」を武器にグローバルへ

日本のスタートアップエコシステムが、先行するアメリカや中国にどう対抗していくべきか。2人が共通して見出したのは、日本の製造業が長年培ってきた「現場の蓄積への再評価です。

木塚は、かつては研究者であっても燃料電池の車載は不可能とする考えが大勢だった燃料電池車を、日本のメーカーが粘り強い開発で実際に路上に走らせた実績を挙げ、日本の製造業の驚異的な底力と、ビッグテックの論理とは異なる日本独自の進化の形に期待を寄せました。

また、日本の特徴的な文化である「慎重な合意形成」についても、見方を変えれば強力な武器になり得ると久禮氏は述べます。日本は意思決定までに多角的なリスク検証を行うため、時間はかかるが致命的なリスクは起きにくい点、1度合意形成されて組織が一丸となったときのスピードと遂行能力は極めて高い点が強みとなるとの考えを示しました。 スタートアップは、この大企業の「合意形成後の遂行力」をレバレッジするために、開発の初期段階から大企業の現場と深く入り込む戦略が有効です。

また、エネルギー需要は国境を越えるため、国内市場に留まらず、最初からグローバルな需要を見据えたパートナーシップを構築することが、ユニコーン級の成長への最短距離となるかもしれません。

General Partner 木塚 健太
General Partner 木塚 健太

日本発のエネルギー循環モデルに向けて

本ディスカッションは、エネルギー革命の本質が技術競争だけではなく、「エコシステム構築競争」の重要性が増していることを示唆していました。

まずスタートアップには、サイエンスとしての正しさを追求するだけでなく、大企業の現場に対して「エンジニアリングとしての解像度」をいかに提示できるかが問われています。木塚が指摘した「サイエンスからエンジニアリングへのフェーズ移行」こそが、資本が動く最大のトリガーであり、市場の成熟を測る重要な指標となるからです。

これに対して投資家には、AI需要という明確な出口を見据えつつ、技術が「死の谷」を越え、量産化・安定化へと向かうタイミングを正しく見極める眼力が求められます。

そして、こうした両者の動きを日本の産業力へと昇華させる鍵は大企業側にあります。久禮氏が述べたように、大企業が自前主義を脱却し、スタートアップと「循環」を共創する組織へと変革することは、もはや自社のエネルギー安全保障に直結する生存戦略そのものです。

今後の電力需要増加に備えるためにも、日本の製造業が誇る「粘り強い現場力」と、スタートアップの「破壊的思考」が高度に融合したとき、日本発のエネルギー循環モデルが世界のデファクトスタンダードになる道筋が見えてくるように思います。

このモデルを具体的に推進すべく、スタートアップ支援を含めた活動を行っているのが、日本特殊陶業の「水素の森」プロジェクトです。水素・炭素循環に関連するスタートアップに対し、ファンド支援から実証実験の場までトータルでサポートを行っています。ご興味がありましたら、こちら(ml.niterra-suisonomori.jp@niterragroup.com)よりお問い合わせください。

※所属、役職名、数値などはイベント開催時のものです。
(執筆:GB Brand Communication Team)

久禮 圭祐

久禮 圭祐

日本特殊陶業株式会社

サステナビリティ戦略室室長

木塚 健太

木塚 健太

グローバル・ブレイン株式会社

General Partner